「おとぎ話のお姫様、めでたしめでたしの絶頂から…」ダムゼル 運命を拓きし者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
おとぎ話のお姫様、めでたしめでたしの絶頂から…
むか~しむかし、イノフェという国に、エロディというお姫様が住んでいました。
王妃である母親は亡くなってしまいましたが、父親である国王、義母、まだ幼い妹の4人で暮らしていました。
国はとても貧しく、エロディたちも平民たちも一日一日の暮らしがやっとです。
国の為に何か出来る事はないか、そう思うエロディ。そんなある日…
エロディに結婚の話が。しかも相手は、アウレアという大きな国の王子様!
エロディはあまり結婚に乗り気ではありませんでしたが、国の為にと承諾しました。
アウレア国へ。美しい国に魅了され、王子様とも意気投合。
皆に祝福されての結婚式。
そしていつまでもいつまでも幸せに暮らしました。
これがただのおとぎ話だったら、そんなめでたしめでたし。
これは勇敢な騎士が窮地のお姫様を救い出す、そういう類いのおとぎ話じゃない。
見ればすぐ分かる。
冒頭。王率いる騎士団が闘うは、ドラゴン。が、追い詰められ、騎士団は全滅。たった一人になった王にドラゴンが迫り来る…。
躍動感ある剣と魔法とドラゴンのファンタジーに非ず。不穏な幕開け。
荒涼とした土地のイノフェ。アウレアからの縁談は玉の輿なんかじゃなく、政略結婚。
船でアウレア国に向かう途中、闇夜の中に浮かび上がる松明と石像。何かの暗示…?
寛大に迎え入れてくれたアウレア王妃。が、義母がこれから親戚として昵懇に…と挨拶するや否や、親戚ではないと冷たい対応。
式の後、山頂へ。王妃らが仮面を付け、何かの儀式。エロディと王子の手の平に傷を付け、血を混ぜ合わせる事で“王族”に。
王子にお姫様抱っこされ、儀式は終了…ではなかった。不気味で異様な雰囲気の予感は的中した。
幸せからどん底のまさにその言葉通り、お姫様抱っこされたエロディは穴から奈落の底へ放り投げられてしまう…!
暗く深い地の底で、怪我を負いながらも生きていたエロディ。
至る所に同年代と思われる女性たちの遺体。
不気味な音。恐ろしい何かの存在。
そこにいたのは…、ドラゴン。
人語を話すドラゴンから衝撃の事実を知らされる…。
かつてアウレア王がドラゴンに敗北しそうになった時、ドラゴンとある契約を交わした。代々、王家の娘をドラゴンに差し出す事。そうやってアウレア国は存続してきた。
王家に娘が生まれなかったら、花嫁を迎える。王家の娘ではないが、あの儀式によって…。
王子様との結婚というおとぎ話幸せから急転直下。本当の目的は、ドラゴンに生け贄として差し出される事だった…!
出来ればここはネタバレして欲しくなかった。
Netflixの詳細ページを開くと、はっきり書いてあるし…。
その方が驚きあったと思うが、作品もここからグッとスリリングに面白くなってくる。
暗く狭い洞窟の中を、ドラゴンから必死に逃げる。もはやサスペンスと言うより、モンスター映画かホラー。
コルセットが引っ掛かったり、美しかったドレスがボロボロ。
落下時の負傷やドラゴンの炎で、身体中もボロボロ。
このまま絶望で朽ち果ててしまうのか…?
光る謎の虫。傷を癒してくれる。
壁のあちこちに文字。生け贄にされた女性たちが書き遺したもので、各々の名前や安全な場所や脱出出来そうなヒントも…。まるで導いてくれているかのよう。
必ず生きて脱出する。
ボロボロドレスを破り動き易い格好にし、お姫様からタフなサバイバル・ウーマンへ。
ミリー・ボビー・ブラウンが熱演。
前半のキュートなお姫様もいいが、後半からの女ヒーロー風の方がカッコ良さと美しさ映える。一粒で二度美味しい。
剣を構え、ドラゴンと対する姿も様になっている。
『ストレンジャー・シングス』や『エノーラ・ホームズ』などNetflixと良好関係続く。
何か訳ありと知りつつ、娘を余所の国に。後悔し、娘を救出に向かうが…。レイ・ウィンストンが王と父の苦悩。
義母であるが故に時々わだかまりあるが、最初に結婚に不審感。多様性取り入れの為とは言え、どうしても人種違いの義母にしなければならなかったのかな…? アンジェラ・バセットがちと勿体ない使われ方。
これほどの鬼畜キャラはなかなかいない。ロビン・ライトが拍手喝采級の超絶憎々しさ。
そして、迫力の存在感。
ドラゴン。
個人的に人語を話すドラゴンは好き。『ホビット』のスマウグとかショーン・コネリーVOICEの『ドラゴンハート』とかドラえもん映画『夢幻三剣士』のドラゴンとか。後、神龍もか。
人知を越えた存在のよう。本作でも知能は非常に高く、エロディの心を揺さぶる。
温厚なドラゴンもいるが、でもやはり恐ろしく凶暴である事。
執拗で、残忍。人間など一捻り。炎で辺り一面もろとも焼き尽くす。
前半は暗い画面続き、ドラゴンの全貌もなかなか見えにくいが、中盤過ぎてからは堂々お披露目。デザインもいい。
ドラゴンのみならず、洞窟内の光る虫などビジュアルも魅せるものある。
父王の犠牲により、間一髪脱出出来たエロディ。
が、義母から妹(演じた子もキュート)が連れ去られ、同じ儀式を…。
助けに向かう為、エロディは再び洞窟内へ…。
せっかく脱出出来たのに、妹を救う為自ら戻る様が勇ましい。
妹を救出。再びドラゴンと対峙。決着の時。
今度はやられてばかりじゃない。剣や知力を駆使してドラゴンに深手を負わせる。
両者命を懸けた闘いだが、これでいいのか…?
エロディはアウレアに騙された。
ドラゴンも。かつてドラゴンが突然アウレアを襲ったとされているが、実際は王と騎士団がドラゴンの子を殺し、その命の代償として王家の娘の生け贄を。が、差し出されてきたのは正統な王家の娘ではない。罪もない娘たちを殺し続け、ドラゴンもまたアウレアに騙されていた。
だから二人が争う理由などない。このまま殺し合うのではなく、憎き本当の敵=アウレアに報復の殴り込みを…。
その望み通りになった。
次の生け贄を用意していたアウレア。
その結婚式に、エロディ乱入。ボロボロ姿がまた勇ましい。
たった一人で何が出来る? 嘲笑う王妃らの頭上に、ドラゴン。
やっちまえ! 怒りと天誅の裁きの炎!
スカッとしたね。
確かにこれは、ありふれたおとぎ話なんかじゃない。
実は意外とツボを抑えた、剣とヒロインとドラゴンのファンタジーであった。