「ファンタジーとして描きつつ終末を描くには異端な作品」世界の終わりから たいよーさん。さんの映画レビュー(感想・評価)
ファンタジーとして描きつつ終末を描くには異端な作品
終わって振り返ってみると、すごい作品だったなと…。夢と現実の交錯を地獄の淵で観ながら、思わぬところに連れて行ってくれる。ブルブル心を震わせてくれる良作。
前評判の良さとキャスティングに惹かれて鑑賞。相変わらず幸せになれない伊東蒼さん、今作も凄いです。ダイナミックに見える世界観を確立しつつ、同時に彼女が生きる最小半径が息苦しくも描かれていて、トーンがズッシリと響いてくる。それでいながら、彼女が世界を救うことになると言わんばかりに大人が振り回すのだから面白い。「いやいやそんな…」と考える間も無く話が進んでいくので飽きが来ないし、何より次第にそのファンタジーに惹かれていく自分がいた。
若干踏み込んだレビューになるが、名を連ねている人たちの使い方もまた妙で不思議な感覚がある。夢と現実の中、過去と今、未来を繋いでいくことに無謀さを感じさせない多彩なギミックが引き込まれる。高橋克典さんも政治家似合うし、あの顔もたまらない。一貫して、人間の在り方を突くように切り込む作風は、万人に理解されにくい側面を持つものの、多くの事を考えさせる本質にぶつけ、揺るぎない作品のバランスを生み出している。良くも悪くも。その行き過ぎた感覚こそ研ぎ澄まされていて美しい。
主演は先述の通り伊東蒼さん。脇を固めるキャストも豪華で、夏木マリさん無くしてファンタジーなし。そう言わしめるほど完璧。また、チョイ役で宮﨑優さんに中村守里さんが出ていたり、細かな点も嬉しかったり。
結構最後は泣かされた。「変わらないことがあるとすれば、皆変わっていくってことじゃないかな」Mr.Childrenの『進化論』を思い出す。愚かで過ちを繰り返す。自分だけが良い世界で、彼女が世界の終わりから伝えるもの、それが何より生きる希望に私は感じた。