「👏👏👏拍手しかありません。」タイタニック ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター humさんの映画レビュー(感想・評価)
👏👏👏拍手しかありません。
こころのどこかでローズが求める未知な世界を持つジャックとの出会い。
身分や階級の壁はタイタニック号の中でも人々の差別意識を露わにした。しかし、怯むことなくローズへの想いを募らせるジャック。
若さという熱を帯びた美しいほど真っ直ぐな二人を見ていると、ある時はジャックの気持ちで、またある時はローズの気持ちで感情に吸い込まれる。
ジャックの人柄に解き放たれる感覚は新鮮だっただろう。実家の経済を助けるためだけの婚約者への思いと異なる自分の気持に気づいたローズが、夜風の吹くベンチで空を見上げるジャックに会いにくるあのシーンで体のなかみがぎゅうっと喉の奥に一気にあつまる気がした。
三等船室のパーティーでみんなの輪に入り賑やかに愉しむアイリッシュダンス、前に前にと進む風を受け星空と夜の海のあいだに2人で包まれたデッキ、追われて隠れ込んだ航送車の中での時間、出会ってまもなく烈火のように昂っていく2人の感情をディカプリオとケイトが憑依させていたことがわかる名演だ。
25年後の3Dリマスター版は進み続ける映画技術を確かに感じさせたが、ストーリーの細やかな表現や展開、迫力に錆びも綻びも感じさせず、むしろ懐かしむ観客には、昔と違う新たな発見をさせ、自分なりの歴史を生きてきたことをおもわせる作品になっていた。
とりわけ今の私には、命の間際の人間の心がなにを選びとり、どう行動するかが印象深かった。
例えば、生演奏をきかせる音楽家たちが、沈没へのカウントダウンが近づき演奏を止め解散したのに、次々と戻ってきてまた奏でる。それまでは客の不安を和らげるためだったが、今は船内に戻った船長に向けて。
切ない音色に溢れるのは、タイタニックの従事者としての思い、船長に対する最後の敬意と惜別の念だ。そこに顕れた彼らひとりひとりの人間性が愛おしく尊い。
また、客室に残った高齢夫婦が選んだ最後は共にベッドに横になり運命に身をまかせることだった。
豊かな船旅を遂げるはずの彼らの物語は、悲運を甘んじて受け入れながらも決して離れることのない終焉を望む。
2人の静寂から長い年月の日々に育まれた何者にも切り離せない絆が伝わってくる。
それから、幼い子たちに本を読み聞かせ寝せてやる若い母は、絶望と恐怖のさなか平静を装い、わが子の最後にいつもの安らぎを与えてやろうとする。その母性への敬意で胸がいっぱいになる。目を閉じる2人に届くやさしい声が穏やかな永遠をつくりだす愛なのだ。
ローズが信頼を寄せていたタイタニック号の設計士アンドリュース氏は狂ってしまった時計の針を時刻にあわせるためにその部屋に留まるという。せめて全てが終わった時刻を世に知らせねばとの責任感だろう。彼がローズに避難を促されたが断り非常用ベストを手渡す様子にはその覚悟がみえ、切なく込み上げるものがあった。
そしてジャックとローズは悲劇の惨事に決して諦めずに互いを守り合うのだ。浸水する廊下に敢えて助けに歩き出す姿、ハンマーで手錠を切るのも機転をきかし相手のために自分へ向かう恐怖を越えたからだろう。
しかし、無惨に沈みゆく船に容赦はない。投げ出され凍てつく海に彷徨いながら自分の命が尽きるまでローズを励まし希望を与え守り通したジャック。その愛に応える為に生きる力を振り絞り生還を果たしたローズ。
若き日と同じ澄んだ青い瞳で忘れることのない過去を語りきかせたローズは自分の思い出を閉じにきたのだと感じた。
年月の流れを隠さないその手で人知れずあの海に葬ったもの。
価値はその胸にだけに宿ることをそっと教えてくれたのだ。
今も魂レベルを震わす誇りと気品に満ちたゆるぎなき不朽の名作は、生きているうちにこれ以上のものに出会えるのだろうかと改めて思わせた。
極みをつくす演出と真にせまる演技を大画面と音響で味わう幸福感が琴線の感覚をピークに運ぶ。
公開最終日になんとかぎりぎり滑りこみ、あの映像美の世界に浸れた感動。
今も大西洋に眠るタイタニックと共に再び永遠となった日だった。
👏拍手しかありません。
修正済み