「自分自身に向き合いながらも誰かに委ねることを問う作品かと思います。」アンダーカレント 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
自分自身に向き合いながらも誰かに委ねることを問う作品かと思います。
今泉力哉監督の作品は流れる空気感と言うか、世界観が結構好きなんですが、今作も気になっていた作品なので鑑賞しました。
で、感想はと言うと…良いすね♪
独特の世界観でゆっくりと流れる時間。台詞もBGMも光量でさえ、最小限で留めている。和食のような素材の良さを活かす感じで味付けは素朴な感じ。
空気感すらご馳走に感じる味わいは他の方も仰られてますが、文学のような味わい。
ここに昔ながらの薪で沸かす銭湯が舞台と言うのが良い。個人的にはひとっ風呂浴びた後の瓶のフルーツ牛乳やコーヒー牛乳、マミー等をグビッと味わうシーンがあったら文句無しw
原作は未読ですが、漫画が原作と思えないくらいに淡々とした世界観に今泉力哉節が活きている。
個人的に好きなのは場面転換の暗転が多用されていて、何処か演劇のような雰囲気も感じるんですよね。
夫の突然の疾走と謎の男の訪問と突然の就労。近所の女の子の事件とそれぞれの過去の想いと回想。
それぞれの出来事は鷹の爪や山椒のようにピリリと辛くも刺激的な切っ掛けであるけど、それが邪魔している感じはしない。
あくまでもアクセントになっているのが心地好い。
だが、かなえの心の奥底には静かにそして時折澱むかのような水流(アンダーカレント)が存在している。
今泉力哉監督とメイン脚本を担当されている澤井香織さんと組み合わせの妙に日常の静かさと誰もが心の奥底にある水流との対比が文学的なのではないかと。
プロレスで言えば、アメリカンプロレスでもハイスパートレスリングでも無く、キャッチアズキャッチキャンのランカシャーレスリングのような味わいと言うか…って解り難いですねw
真木よう子さんに井浦新さん。リリー・フランキーさん、永山瑛太さんと隙の無いキャスティング。
井浦新さんは自分が観る作品に御目にかかる機会がホント多いけど、良い味を出されているんですよね。
また、探偵の山崎役のリリー・フランキーさんが良い感じ。
雑多な探偵と想いながらも徐々に味わいと独特のニヒリズム漂う山崎が良いんですよね。遊園地のシーンやかなえと悟を引き合わせた海辺のカフェでのコーヒーの配膳の振る舞いなんてシブ過ぎ♪
また、カラオケ屋でのダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「裏切り者の旅」を歌うなんて、変化球かつ皮肉が効いているのが良い。
ただ、個人的に感じた難点も無きにしもあらずで、ラスト30分ぐらいからの伏線の回収と言うか、それぞれの切っ掛け回収はちょっとどうかと。
特に悟の行方が判明した件は良いとしても、2人を引き合わせて、悟が失踪した理由を明らかにするのは個人的にはちょっと余計と言うか、戴けない。
かなえと山崎が悟との待ち合わせ場所に向かうところで止めていても良かったと思うし、ここは観る側の考察に委ねた方がスッキリすると言うか、“らしい”んではないかなと。
悟の今までの葛藤や理由を明らかにされてもちょっと勝手に感じるし、冷静に考えるとなかなかメンヘラでサイコパスなんですよねw
まあ、そうすると永山瑛太さんが回想のみなのでなかなか贅沢な使い方になるんですがw
かと言って、重油ボイラーをもらいに行った先の意味深な火災とか本筋に絡みそうで絡まない出来事もあり、ラストのかなえが犬の散歩をする後ろでストーカーのような絶妙の距離で付いていく堀との描写は観る側に委ねる素敵なラストだからこそ、余計にラスト手前からの回収パートは個人的には少し残念かな。
劇中で「自分は嘘つきです」と言う台詞があるけど、自分を正直者と言う人ほど、嘘臭いと思えるし、台詞にするとちょっとこっ恥ずかしくなる。
自分自身が時々分からなくなる時だってあるのに、ましてや家族と言えど、他者が分からないなんて、普通と言えば普通。
誰しもが自分の心に対しては当事者のようで何処か門外漢なのではないかと。かなえや堀、悟は赤裸々に語れば語るほど門外漢な自分の心との葛藤を悩まされるが、そこに居る人との距離が嬉しかったりするんですよね。
だからこそ、ラストが心になんか染み入ります。
143分と言う上映時間は長いと言えば長い。でも、鑑賞中の時間がなんか心地好く贅沢な時間にも感じる。
薪割りのボイラーの銭湯(また、中の湯船の周りの装飾が良いんだコレが♪)。飼い犬。たばこのピース。縁側。どじょう。ボイラー室の横の休憩部屋。近所の人との交流。エトセトラエトセトラ…と素敵なモノが詰まっている。
慌ただしい日常の中で、雲の流れを見ていたり、川側でゆっくりしてみたり、窓の外を見ながらお茶を飲んだりする時間を贅沢に感じ味わえる人で映画は劇場で観る主義の方なら余計に好きな作品ではないでしょうかとw
なので、是非劇場で味わって欲しい作品かと思います。
トミーさん
コメント有難うございます。
なるほど、なるほど。今作は鑑賞後にいろいろ思い返したり、同じく鑑賞した人と感想を語ったりしてましたが、結構穴がポロポロと出てきましたw
方向性とかが似てるようで違う作品なのと、その時の鑑賞姿勢にもよって変わりますよね。でも、観た時の感想と後から変わったりするのも面白かったりしますね。
また、お時間があられましたら、覗きに来てくださいね♪
トミーさん
コメント有難うございます。
確かに確かに!
今作も含めてですが、今泉力哉監督の作品は割りと観る人を選びますよね。
バチッとハマる人にはハマるんですが、そこが難しいところですけど、ツッコミどころも含めて自分は好きなんですよねw
また、お時間があられましたら、覗きに来てくださいね♪