「すれ違いコントーアンジャッシュ」無情の世界 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
すれ違いコントーアンジャッシュ
互いの認識がすれ違ったまま会話をしてしまい、とんでもない勘違いをしてしまうといったネタを、明確な笑いに落とすことなく、映画の体裁を担保するといったコンセプトで共通したオムニバスである こちらのほうが『THEATERS』よりも明らかにレベルの高さは段違いだと感じた
1作目はとりもなおさず唐田えりかの独壇場であろう あれだけの不貞不貞しさと、危機を乗り越える悪運の体現、魔性の姿態と屈託無い笑顔は、多分他の俳優には追随を許さない特殊な才能だと認めてしまう それはスキャンダラスに塗れたプライベートが良い意味で補完したイメージ戦略かも知れないが、中々それを狙って作り得るモノではない 多くのキャスティング責任者がオファーの思いに駆られるという噂も、ステークホルダーのストップで涙を呑む状態では本当に残念な限りだ ラストシーンのベンツの車内から外を覧る表情は、不安と自信を同時に表わした何とも言えない顔であった
2作目はビルの階数を間違えて本物の組事務所にカチコミに乗り込んだ、オーディション参加の俳優の話 ヤクザの無茶振りに、何故だかビニール袋を被りガムテで首を縛って窒息する"覚悟"?を示すという、それが答なのかよく分らない、でもフィクションではよくあるシチュエーションをやってしまう俳優としての"性"を演じるメタ視点が面白い作品である
3作目は問題作 観賞後の各監督トークショーでの話だが、3作目のみ時間オーバーで50分以上だったらしい
そのシレっとした不敵な姿勢も面白いが、作品も又凝った造りになっている 同じレンタルスペースを利用している、護身術教室と恋愛指南教室 お互いの教室の生徒がそれぞれ意識のベクトルがまるで正反対に作劇されている喜劇として秀逸なアイデアであろう 方や男は敵、方や女はパートナー そんな現在にも通じる敵対心の中で、不運なのか触れ合ったところが男の本能という悲喜劇なのもオチとして卓越である その後の後日談の件はまぁ、強烈なオマケといった感じで、直接テーマ性は結びついてはいないが、男同士の幼稚な交遊内容を馬鹿馬鹿しくも演出してみせた作劇は大変面白かった 夢とは言え、いきなりの拳銃自殺は心の準備が出来ていなかったので衝撃だったが、あれも監督の計算だったのだろう 前触れもフリもなく、伏線も用意されていない中での唐突さがどれだけ観客に影響を与えるかの実験だったかもしれないという野心さも垣間見えたシナリオである
どれを取っても秀逸な短編で、長編には膨らましづらい、しかしアイデア勝負という点では才能を遺憾なく発揮した良作であった
"オムニバス"という上映方式の難しさを改めて感じさせる感想を強く抱かせた仕上がりである
今作は奇跡的なのか意図なのかは不明だが、本当に秀逸さが際立つ希有な連作である
もしかしたら交わらない群像劇といっても良い位に三作の親和性が高密度化されていると感じた
1部で、テーマの通り"冒険"を演出しつつ、サバイバル能力の高さが武器となる現在の非常な世界の描写 2部では逆に上手く立ち回れない不器用な人間がそれでも這いつくばるしぶとさ、そして3部に於いては、もうそんな事さえも逃げ出す厭世観の表現と、正に『ディストピア』を再現した順序に、世界観の同一を実現せしめた制作陣の高次元の映画制作を垣間見たと感じたのである
"冒険"に成功する人もいる 但し殆どは失敗する"憂鬱" ましてや他責さえも受け入れざるを得ない感情的な自己責任論 そんな今オムニバスの題名を全シリーズのスタッフロール後のポストクレジットとしてスクリーンに堂々と『無情の世界』のロゴと、三作の心象シーン(意味深い風景カット)があれば、もっとエモーショナルとなると思ったのだが、ハイ、大きなお世話です ごめんなさい!
言葉は誰のものでもないですし、むしろ数少ないレビューで被るというのも面白いです。笑
唐田えりかの起用に関してはまったくの共感で、悪評が役に厚みを持たせてました。
「浮気は芸の肥やし」を超える転換かと。
3作目が50分オーバーだったという情報も興味深いです。
確かにそのくらいの中編で描いたら面白くなりそうですよね。