骨噛みのレビュー・感想・評価
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少女時代に体験した父の葬儀の記憶。「点描」以上に、デフォルメとカメラワークが印象的。
『幾多の北』特別上映の前に、三本上映された短篇のうちの一本。
少女時代に父を亡くした矢野ほなみ監督自身の体験をもとに描かれる、独特のテイストをもった点描アニメーション。
点描は、突き詰めた具象表現としての「光の点」ではなく、あくまで「筆法」として用いられているので、雰囲気としてはジョルジュ・スーラ以降――たとえばナビ派とかの使い方に近いのかな。
点描と同じくらい印象的なのが、ぐるぐると動き回るカメラワークの視点で、アニメでしか表現不可能な回り込みや、デフォルメで世界を歪ませるような演出が徹底的におこなわれていた。
そこには、幼少期特有の世界に対する不安感や、いつも多動ぎみに突っ走っている抑えきれない衝動といった、主人公の少女の心理状態なんかも反映されているのだろう。
たしかにお葬式の話ではあるのだが、むしろフラッシュバックした過去の記憶パートのほうが長くて、幼い姉妹の田舎(瀬戸内海の大島)での海遊びや父親との思い出が、じんわりと胸にしみてくる。
お地蔵さんにかしわ手打っちゃだめだろ、とか、「くれのぐんこう」「まっくろなかやくこ」「まっくろになったさかな」あたりのワードセンスはいかにもだなと思ったりもしたが、総じてノスタルジックだがちょっと陰りのある描写は、じつに個性的だ。
観ていて、監督の秘密めいた過去の記憶をこっそりのぞかせてもらっているような、なんともいえない気持ちになった。
「骨を噛む」というのは、『東京タワー』でリリー・フランキーが盛大にやらかしていたが、もともと「ひとかけら口に入れる」風習が、西のほうでは実際にあるらしい。
「やけたほねは クレヨンのにおいがしました。」
たしかに! うちの祖母ちゃんの骨も、そんな感じがしたよ。
ラス前の台詞は、ある種の「悔恨」含みなんだろうな……。
そこまでうるさいくらいにカメラ視点を動かし続けていたのに、最後の最後になって視点を固定し、代わりに画面から「色」を抜いて行った演出は、とても効果的だったように思う。
あと、物語を朗読していた少女の声が、とてもしっくり合っていたのも良かった。
ついでに、こんなことを書くとルッキズムだなんだと怒られそうだが、会場で登壇&サイン会をされていた監督は、凛とした美貌のきわだつとても雰囲気のいいお嬢さんでした。
『ミセス・ノイズィ』の天野千尋監督のときも思ったけど、こういう若い才能がこれからの映画界を支えていくんだなあ、と。
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