劇場公開日 2023年7月28日

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「単なる自叙伝では終わらない」シモーヌ フランスに最も愛された政治家 ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0単なる自叙伝では終わらない

2023年11月5日
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鑑賞方法:映画館

女性政治家がこれまでを振り返って自叙伝を書く。性差別が根強く残る時代で、結婚後に3人の子供を育てながらキャリアを築き、中絶の権利を認める法案(えいが「あのこと」を思い出す)や刑務所内の衛生環境改善などを実現させていく。
…というのは珍しい話ではないが、この映画は感覚としては半分くらい(実際には1970年代の方が多いかな)がユダヤ人強制収容所での記憶が描かれる。シモーヌの父親はユダヤ人というよりフランス人として暮らし、水辺の別荘で兄弟達と過ごした記憶を持ちつつ、犬畜生以下の扱いで汽車にすし詰めにされ指輪やなんかも全て没収、長い髪も虎刈りにされ食事もまともに与えられない、何かあれば即殺される状況を受け入れる苦悩。幸運があって姉と自分は何とか生還したものの、両親や兄は亡くなり、生き残ったことは間違いなのではないかと発狂しそうになったりするのもムリはない。
2004年、記者からの提案でアウシュビッツ60周年の記念に自分達がいた収容所を孫達と一緒に訪問する。木の板でできた寝台は、シモーヌや姉、母たちが寝ていた場所だ。ポジティブな記憶なら「懐かしい…」となるんだろうが。
記憶は歴史とは違う個人的なもので、言葉によって伝えない限りは受け継がれない。だから子ども、孫、曽孫に自分達の経験を伝えていくことで、間違った人達によって弱者が不寛容な方向に向かっていく最近の流れを止めなければならない。と、いうのはある年代以上の人達の一般的な思いかもしれないが、過酷な経験と、それを乗り越えて努力し、社会を変革した人物の説得力は抜群だ。
良い映画だった。

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ミーノ