「流れ作業のような殺しぶり」THE KILLER 暗殺者 平野レミゼラブルさんの映画レビュー(感想・評価)
流れ作業のような殺しぶり
元暗殺者が元暗殺者が少女を救うため殺しの世界へ舞い戻る……という「お前それ何番煎じ!?」なアジョシ系韓流アクション!
ただ『アジョシ』をはじめとした同ジャンルの殺し屋映画が出尽くしてることを活かし、説明や背景を大胆に省き、アクションだけに集中させる潔い作りに惚れます。無論アクションも良いです。
で、本作の殺し屋おじさん(アジョシ)であるウィガンなんですが、引退後は賃貸投資で大成功して金が唸るほどあるし、フツーに愛する奥さんもいるという殺し屋映画にしちゃ破格なぐらいに勝ち組で余裕があるのがまず面白いです。
何が凄いってこの手の映画でありがちな、殺し屋としての過去の業の精算とかが一切ないことですね。『ベイビーわるきゅーれ』は「明るい殺し屋映画があってもいいじゃないか!」ってスタンスでしたが、本作もある意味それに近い。
過去への葛藤? ないよ?
奥さんが浚われる展開? ないよ?
ブランク? ないよ?
犬? 飼ってないよ?
弱点を潰しに潰した無敵のジョン・ウィックですね、これ……
ウィガンおじさん、実際に鬼強くて、いざ殺しの現場に出向いても何の感慨もなく淡々と殺していくのがいっそスガスガしくあります。表情筋はほぼ死に絶えているけど、他の筋力は全盛期のままで常に無双し続けるので流れ作業で死体が量産されていきます。
あと容赦も一切ないので、敵が女だろうと、降伏しようと、情報を喋ろうと関係なくぶっ殺します。『コマンドー』で言う「お前は最後に殺すと言ったな。あれは嘘だ」を三連続でやった辺りは変な笑いすら出てきた。その後も「あれは嘘だ」し続けるし……
強者感出してたロシアの殺し屋相手でも、全然空気読まずに圧倒するのスゴかったからね。3回くらい闘ってるんだけど、いつもロシアの殺し屋の方が重傷負ってるし。
実質的なラスボスの筈なんだけど、ロシア側が一矢報いる機会が全くなく、こんなに一方的なことある!?と思ってしまいました。
ここまで格闘から熱量を廃すことって可能なんだ…ってくらいにクールなんですよね。おじさんが強すぎるせいで危機という危機が全くなく、さらに常に先手まで取っているから、あとはポップする敵をひたすら倒すだけ……という。
正直、もうちょい熱あるアクションの方が僕好みではあるんですが、ちょっと刺されようが攻撃を食らおうが全く動じないおじさんのキャラや流麗なアクションも相俟って、これはこれで超楽しかったです。
例えるなら滅茶苦茶FPSが巧い人のゲームプレイ動画を観ているような楽しさですね。凄すぎて感心するか、思わず笑っちゃうしかないという。
余分を省いたアクションは、一切スタントを使わなかった主演のチャン・ヒョクの凄みがダイレクトに伝わってくる感じでもあり、そういう意味では十分熱も籠っていると言えるかもしれません。
チャン・ヒョクがディーン・フジオカ似の涼やかなイイ男だから、このスタイリッシュな格闘描写も眼福なんだよね。
余分を省いたのはストーリーも同様で、ぶっちゃけ中身はあってないようなもんです。
むしろ「いや、君たち似たような作品をもういっぱい見てるでしょ?」って感じの目配せがされている様子もだいぶ見受けられます。
だって「殺し屋が少女を守る」ってお約束の展開にしたって、今回の守護対象となるJKとおじさんに特別な関係性とかあるわけじゃないですからね!奥さんが友達と一緒に旅行に行く3週間だけ、その友達の娘を家で預かっているだけですからね!!
こんな騒動に巻き込まれたのも、JKと一緒に暮らすの面倒くさがって放任していたせいという。流石に保護責任放棄してたのバレたらマズイな~の感覚で荒事に臨んでるというしょうもなさが凄いです。
まさか、冒頭の殺し合いの時にかかってきた「預けた女の子元気にしてる~?」のメッセージが、敵からの煽りとかじゃなく、奥さんからの言葉通りの意味だったなんて思うわけないじゃん!!
一応、JKと絆を深める過程は最低限描写されますが全く劇的ではないし、過去ウィガンに自殺を依頼してきた別のJKとの回想なんかも入りますが必要最低限であり、大部分は「そんなことよりアクションだ!」です。ウェットさは限りなく排除されていると言って良いでしょう。
そのため、ドラマとしてはそこまで評価できないんですけど、最後の最後に明かされたとある真実「奥さんの正体は、過去ウィガンに自殺を依頼してきたJKだった」は本作に横軸があるとは思ってなかっただけにビックリしました。
いや、考えてみればそういう話だったし、あからさまだったんだけど、そういう話だと思ってなかったから逆に虚を突かれちゃったな……
最初から奥さんがウィガンが殺し屋だったことを知っていたものとして思い返すと、不遇な状況の少女を救うための慈善活動として定期的にこういう大立ち回りやってるんじゃないか?とも思えるんだよな……(なんせJKのアドレスの登録名「ガキ“5号”」だし)
いや、しかし、いかにもお約束的な感じのアジョシ系映画をやっていますが?という優等生顔しながら、要所要所でお約束からちょっとずつズレた行動を挟んでいる感じの作風だったから「いや、真っ当な映画だったけど…何か……何か変じゃなかった……?」と微妙に首を捻る系統の作品でもあったなァ……トンチキ映画の類では絶対にないんだけど、後々咀嚼してみるとトンチキ映画の味がしてくる感じというか……
スッゲェーシンプルを貫いていて面白いけど、こういう不思議な気持ちになるんだよね。