劇場公開日 2023年3月3日

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「本は人生のサポーター」丘の上の本屋さん asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0本は人生のサポーター

2023年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 自分が小さい時の小学校の教師が言いました。「本は心の栄養である」と。正直自分は活字に触れるのが苦手ですが、それでも本をたまに読むと「なるほどなぁ」と思う時があります。自分の考えを見直すきっかけになったりします。あの時の先生の言葉はあながち間違ってない。もう少し本に触れていたら、もう少し自分の考えの地盤が固くなってたかも、もう少し自分の考えの伝え方も変わっていたかも、レビューも良く書けるようになっていたかも(笑)。もし小さい時に本作の主人公:リベロと出会っていたらそうなっていただろうか?本作は少しそう思える、穏やかで温かみのあるイタリアのカントリームービーです。

 ストーリーの舞台はイタリアの小さな町の丘にある小さな古本屋。老人店主リベロは、隣のカフェで働く陽気なニコラに手伝ってもらいながら静かに経営していた。時には本を買い取り、時には個性的な客が来て対応したり、暇なときは買い取った本の中にあった“日記”を読んだり。ある時貧しき移民の子:エシエンが店頭に並ぶ漫画を眺めていた。リベロは「貸してあげるから終わったら返しにおいで」と言ってエシエンに漫画を渡す。本が好きなエシエンは一気に読み上げ、すぐに返しに来た。彼が本好きだと気づいたリベロは、少しずつ読み応えのある本をエシエンに貸し、少しずつ交流を深めていく・・・てな流れです。

 まず思うことは、この映画の穏やかさと絵的な美しさよ。

 イタリアの中部に位置するチヴィテッラ・デル・トロント。ここの街並みはまさに息を呑むようなという言葉が当てはまるほど美しい。ストーリーの合間に現れる背景は穏やかさを感じ、観てて飽きない。また穏やかさはストーリー全般に広がっていて、変に盛り上がることなく過ぎていく。しかし水面下ではゆっくりと物語は動いていく。そしてじんわりと映画が身体に染みていくような感覚。この見せ方は自分的には大好物。イタリア映画でこのような手の作品はホント心地いい。惜しむらくはもう少し余韻に浸りたいと思わせる部分があったこと。ちと編集の面で残念な部分あり。

 そしてもう一つこの映画を観終わってから思ったことは、

本は人生のサポーターなのかもしれないということ。

 現れる珍客たちに対し、リベロは誰に対しても穏やかに相手と話し、様子を探って適切な本を勧めていきます。どのような内容でも気にしない。大事なのはその人に合った本を勧めることであるかのように。そしてエシエンには最初は漫画を、少しずつ読み応えのある本を勧めていきます。またエシエンに本の感想を聞き、本の教えを伝えていきます。リベロは、それが少年の糧になることを知っているかのように。
 本というのは、ジャンルにもよりますが、行きつくところは道標のひとつになりうる。それをこの映画は伝えたかったのかなと、自分は思うんです。

 しかし、この映画が強烈に伝えたかったことはもう一つあると思うんです。それは、なぜリベロは個性あふれる珍客たちにも穏やかに接したのか。ふれあいを大事にしたのか。それは少年に最後に渡した本にある。ラストを見た時、「あぁ、なるほどなぁ」と思いました。ラストの音楽はちと強すぎたのが残念やけども、これは大事。リベロの人柄の良さがあふれるシーンです。

 この手の映画は大きく盛り上がらないし、人によっては退屈に思うかもしれません。しかし、こういうじんわりと染み入る感覚も悪くない。特にイタリアの映画にはこの手の作品は滋味な感じでホント良い。個人的には点数はどうあれ、オススメできる作品かと思います。

asukari-y