「もう少しときめくものが欲しかった」劇場版 SPY×FAMILY CODE: White アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
もう少しときめくものが欲しかった
人気のアニメの劇場版である。テレビアニメは全話見ているが、設定を受け継ぎながらのスピンオフという作りだった。はじめの方に大雑把な各キャラの説明があるので、テレビアニメを見ていなくてもそれなりに楽しめるとは思うが、説明が足りない部分もあるので、テレビアニメを見ておいた方が無難である。しかしながら、率直に言ってテレビアニメを全編観ているファンには、逆にかなり物足りない内容になっている。
西側のスパイの男ロイド・フォージャーがミッション達成のために偽装家族を構成する必要に迫られ、妻役と娘役をスカウトして俄かに作り上げたのがフォージャー家である。妻役に選ばれたヨルは実は東側の殺し屋であり、娘役に選ばれたアーニャは孤児院育ちで人の心が読める超能力を持っている。飼い犬のボンドは未来を予知する超能力があり、アーニャは犬の心も読めるのでその未来予知も共有している。アーニャはロイドとヨルの正体を当然知っているが、ロイドとヨルは互いの正体を知らないという設定になっている。また、ヨルはロイドに想いを寄せているが、ロイドはそれにも気付いていない。
前半はテレビシリーズで見たことのあるような話で、あまり目新しいものではない。アーニャの学校でお菓子料理コンテストがあり、審査員長を務める校長の好みを情報として知っていたロイドは、その菓子の試食のために家族を伴って校長の生まれ故郷に出かけるのだが、そこで想定外の人物が登場して話がややこしくなる。
メインの舞台は、爆撃機に改装された飛行船なのだが、そこに行き着くまでの展開がかなり長い。描き方が丁寧という言い方も可能なのかもしれないが、かなり焦れったい感じを受ける。飛行船内は火気厳禁であり、銃など使用してしまったら飛行ができなくなるのは自明のはずなのに、遠慮なくどんどんぶっ放す兵士たちには頭を抱えたくなった。また、口紅に火を近づけたところで着火するはずがないのは常識だと思うので、あの展開もいかがなものかと思えた。
序盤からアーニャに絡む2人の兵士が、下っ端なのにやたら登場場面が多いと気になっていたら、声を演じているのが中村倫也と賀来賢人だったらしい。二人ともこの作品の大ファンだということらしかった。
個人的に不満だったのは、ヨルの戦闘シーンや普段の絵面にときめくものが少なかったことである。アップになるシーンも数えるほどというのは、ファンが何を観に来ているのかを制作側が全く理解していないとしか思えなかった。アーニャの超能力の設定も、自分のために使うばかりで、少しはロイドとヨルの距離を縮めるのに貢献したら印象は随分違ったはずである。これで良しとしたのでは、脚本の鍛え方不足と言われても仕方がないと思う。
このエピソードがあってもなくても本編への影響が全くないというのも脱力すべき点である。次回の劇場版があるならもう少し考え直すべきだと思う。
(映像4+脚本3+役者3+音楽3+演出3)×4= 64 点。