劇場公開日 2023年3月17日

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「美術・装飾・小道具!」死体の人 t2law0131さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0美術・装飾・小道具!

2023年3月23日
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 映画のモチーフに、役者の哀愁や諦観や役者魂や人生を背負っての『斬られ役』を主人公にしたものがある。そして「蒲田行進曲」(1982年 原作:つかこうへい 監督:深作欣二)の平田満演じるヤスのように、映画史に残る斬られ役も誕生している。まあこの種の役者が注目され始めたのは、同じ深作欣二監督の大ヒットシリーズ「仁義なき戦い」における、大部屋俳優だった川谷拓三や室田日出男らの〈殺され役〉で売り出した、ピラニア軍団あたりからか。
 そんなモチーフから一歩進んで『死体の役専門』という役者を主人公にした『まだ存在しない映画の予告編』のコンテスト最優秀賞を獲得したことで、本編を制作することになった、相当に屈折し倒錯した産まれ方をしている。とはいえ、奇をてらわずに平凡とも言えるボーイミーツガールもの。おそらく本編の企画やシノプシスだけでは、制作にはゴーが出なかったろうと想像できる。
 とはいえ、真面目にシナリオを書き起こし、それぞれの役柄を一所懸命に演じているキャスト、それを描く演出には好感がもてる。特筆すべきは、美術・装飾・小道具が素晴らしい仕事をしているところだ。草苅勲監督のこだわりもあるかもしれないが、主人公のアパートの部屋の道具や装飾は、相当に細かなディテールまで拘って作り込んでいるのが見て取れる。また、ヒロイン加奈がヒモと同棲している部屋の装飾も同様だ。もしアカデミーの投票権がたれば、今年の美術賞にノミネート投票したいくらいだ。
 作品として残念なのは、主人公が説明無く病気療養をしているクライマックス。あまりに唐突すぎて、繋がりをつくる工夫は無かったのかと思う。上映時間の問題でカットしたか、撮影はしたもののデータに瑕疵があったのか。そこだけ疑問である。映画は『省略の芸術』といわれるが、省略しすぎだ。

t2law