車線変更 キューポラを見上げてのレビュー・感想・評価
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岡江久美子さんの遺作そして良作
岩槻映画祭の招待作品だったので観ました。
たぶん、映画館に普通にかかっていてもスルーしていただろう作品でしたが、観て良かったと思える拾い物の良作でした。
賞金王まであと一勝だったオートレーサーの青年が不慮の事故で一転して障害者に。仕事も恋人も失い絶望と「なんで俺がこんな事に」という不毛な怒りに苦しみ、家族にあたり、他のあらゆる種類の障害(知的とか国籍とかもろもろ)をかかえる人に向かって「あいつらと一緒にすんな」といい放つ主人公は、まったく聖人君子ではなく、それが逆にリアルでした。
昨今、障害について他者からの露骨な差別は減ってきて、むしろ同情されたりするけど、障害を負った本人自身には、受け入れ難い差別意識があってそれに苦しむもの。
それでも生きてくために、自分の立ち位置を理解し、他人に感謝し、ハンデを持ってみて初めて他の障害を抱えた人の気持ちや生活を理解していく主人公。そして、障害持ったら試合終了ではなく、車線変更してまた違う目標をみつけ前に向かって進んでいく、そんなお話。
私は家族が半身麻痺になったから、障害を負った直後の精神的苦しみようを直に見てきたので、共感する面があり、でも、ちょっとそれはご都合主義では?とちらり思う場面もありつつ、それでも、とても意義深い良い作品を見られたなとしみじみ思いました。
映画祭も近所でやってるから行ってみようと軽いノリだったけど、思わぬ収穫の作品でした。
他のキャストも豪華で、夢見てた将来が途絶えて荒れる息子を、献身的に支え包み込む母親役は岡江久美子さん。ほんとうに、母性あふれる優しいおかあさん。
この映画の撮影が2019年でその数ヶ月後にはコロナで全てが中断。岡江さんは映画の完成を見ることなく、翌春に亡くなられ、この映画が遺作になってしまいました。
映画観てるとね、とても信じられないくらい元気で若くて可愛い、はなまるマーケットで見てた姿のままで。ぜひ、多くの人にみてほしいです。
映画の中で一回だけ、岡江さん演じる優しい母親が激昂するセリフがあるんだけど、今見ると、説得力がありすぎて、涙が止まりません。
主人公の父は村上弘明さんで、川口の鋳物の町工場の社長。今朝ドラ見てる人はわかると思うけど町工場は存続の崖っぷちな現代。
55年前の東京オリンピックの聖火台は川口の鋳物製だそうで、吉永小百合の映画「キューポラのある街」の舞台だった埼玉県川口市。
昭和かたぎな父親は、障害で反抗期並みに不貞腐れ引きこもり自堕落になる息子をぶっ飛ばし家から追い出します(この辺の表現、脚本書いた4、5年前くらいはギリいけたけど、2023年の今見るとコンプラ的に厳しいのかな)。
厳しくも息子を想う気持ちが滲み出る父親役が素敵で。今や大ベテランの村上さんも昭和の仮面ライダー出身なんですね(スカイライダー)
頼られ助けてくれる障害者就労施設も手がけるおじさん役は平泉成さん。この人は笠智衆さん的というか、あ、似てるんじゃなくて、とにかく、この人が居るだけでいい出汁がでて味が沁みるんですょね。他にもいっぱいちょい役でベテラン俳優さんが出てて。キャスティング人脈どんだけ?
素敵で社会的にも意義のあるお話で、しかも有名実力派俳優が脇を固めてる作品なのに、コロナで中断した後、完成や興業のためにクラウドファウンディングが必要だったり、村上弘明さんが自ら宣伝大使したり、それでもまだ地元川口と岩槻の映画祭でしか上映されてません。
映画作って配給?上映するのって、本当に大変なことなんだなと。。
主人公はオートレーサー、ロードレーサー、障害者の演技(準備期間が相当必要だったろうな)をきっちりこなし、口も態度も反抗期か!なでも純粋な青年をきっちりこなしてた平田雄也。
ウルトラマンルーブの主演の兄ちゃんの方の人だそう。
いい映画だったの。これ、上映する意義大きいと思う。上映館増えるといいな。
というか、TVで放映されるといいのに。
岡江さんの遺作なんだから、TBS、放送しなさいよ、と思う。
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