「家族のことで葛藤と不満を抱える内向的な思春期前の少年がダークファンタジー体験を経てコンプレックスを解消する私小説」君たちはどう生きるか osanさんの映画レビュー(感想・評価)
家族のことで葛藤と不満を抱える内向的な思春期前の少年がダークファンタジー体験を経てコンプレックスを解消する私小説
宮﨑監督は少女の物語ばかりを作ってきたが、正直、オッサンとしては少女が健気に頑張る姿は頑張れと応援する気持ちは起っても、自分のこととして共感はできない。父親のような目線になり、主人公の少女とは距離が出る。だから、少女が主人公の宮﨑アニメは一回見れは十分で、二回以上劇場でみたいとは思わない。だいたい、少女が主人公の映画をオッサンがみるとか、気持ち悪いし。
今回は、思春期を迎える前の少年が主人公だ。眞人は内向的で無口な性格だ。それでいて実は結構、攻撃的である。内向的で無口で攻撃的。ああ、分かる。自分の思春期を思い出しても、その感じ分かる。
その内向的で無口で攻撃的な眞人が、サギ男にだけは内心を吐露する。ただし攻撃的なものの言い方で。そして、いっしょにダークファンタジーの探検を開始する。ああ、分かる。君にもやっと友達ができたんだな。でも、その友達にも酷いこと言ったりして、うまく関係が築けなかったりする。ああ、分からないでもない。(笑)
眞人は、相当屈折している。このまま育ったらどうなるんだろうと心配するに足る少年だ。
その彼が、仲間と共にダークファンタジー世界に踏み入る。ここからは、怪奇・ホラー・変態・グロテスク・ナンセンスの世界だ。エログロナンセンス(怪奇・変態)の世界っていうのは、要は大人の世界ってことだ。大人の世界で、自分の心のもやもやを少しづつ解消していく。そして、最終的にスッキリして、コンプレックスを整理して、帰還する。
帰還後の眞人は詳しく描かれていない。内向的で無口なのは変わらない様子だが、屈折や葛藤は解消された様子だ。他者に対する攻撃性もおさまったに違いない。
明らかに宮﨑駿が自身の少年・青年時代のコンプレックスとその解消の過程を描いた私小説だ。五木寛之の青春の門を思い出した。つまり、自分の少年青年時代のコンプレックスを描くって恥ずかしいよね。しかも宮﨑駿は世界的巨匠だ。その巨匠が自分の恥ずかしい内面を赤裸々に描くって、凄いことだ。
宮﨑駿は、全世界が目撃する創作物で自分のコンプレックスをオープンにして解消したわけだ。勇気がありすぎる。
オッサンとして自分の少年青年時代を思い起こして、共感できる。肝心な時は無口になるのも共感できる。絵の凄さと相まって、凄い作品だと思う。
10代の男の子にこそ見て欲しい作品。少年よ、誰にも言えないコンプレックスがあってもいいんだよ、と。