「「曇りなき眼で見定めよ」この言葉が浮かんできた」君たちはどう生きるか ロットバルトさんの映画レビュー(感想・評価)
「曇りなき眼で見定めよ」この言葉が浮かんできた
「ダビンチコード」という映画をご存知だろうか。
原作の持つ膨大な情報量を2時間強の尺にぎゅうぎゅうに詰め込んである。
事前にキリスト教に関する知識や歴史的背景などをある程度知っていても初見では理解不能な点が多い難解な映画だ。
これを事前知識無しで見るとしたらハードルは更に上がるだろう。
初見で全ての内容を理解するのはとうてい不可能な作品だ。
そしてこの宮崎駿作品にも同じ事が言えると思う。
事前情報としてはアオサギ男とタイトルの2つだけ。
古代史好きな私が「アオサギ」から連想するのは「エジプトの聖鳥」であること。
「太陽神ラー」や「冥府」との関わりがあること。
そして「あの世のナビゲーター」としての働きだ。
「あの世」の存在とは古代人には普通のことだが現代人にはそうではない。
信じる者には存在するが信じない者には存在しない。
無いと思う人には無いのだ。その点で議論する必要はない。
タイトルについては同名の本が存在し監督自身が熟読しているようだが私はまだ読んだことがない。
検索すると14歳の少年の体験を通して人間はどう生きるべきかを考えるという内容のようだった。
作品を見始めてから中盤に物語の展開が急に早くなる。
グイグイ進むと同時に次々と視覚から脳に情報が押し寄せて来る。
それらひとつひとつを瞬時に脳内のネットワークに広げイメージを膨らませ取捨選択をする。
脳をフル回転させて考える。それがとても楽しかった。
例えば終盤のバランスを取るシーン。美しく形を整えられた石は石工の手によるものと連想できる。
それは「ユダヤ資本による世界経済」のバランス。
「人が影響する地球環境」のバランス。
「人口」のバランスなど。
これらに共通しているのはやはりユダヤ資本だ。
「ガイヤの法則」をベースにするとわかりやすい。
そしてそれをコントロールする初老の彼が身に着けているのはエメラルドだった。
エメラルドは「富と権力」の象徴だ。
ダイヤモンドは研磨技術の進化と共にその価値を高めたが古代ソロモン王の昔から「富と権力」の象徴はエメラルドだった。
仮にこれがサファイアならば「聖職者」を連想し「崇高な理念」を持った人と想像できる。
だがそれはエメラルドだった。
「富と権力」を求める者によって生み出された世界は欲望の増幅を制御できずに崩壊しようとしている。
「13」は古代イスラエルの「12部族」を連想する。
そしてその中の精鋭達を集め彼らの末裔でもある少年によって新たな世界を構築しようとしていると連想できる。
この作品を見終わって想うこと。
それは「曇りなき眼で見定めよ」ということだった。
「石」は西洋文明の象徴であり「物資世界」を表し「木」は東洋文明を象徴し「精神世界」を表す。
この世は長きに渡り物資世界に支配され続け人々は思うがままに欲望を奪い争い食い続けている。
人が人らしくどう生きるかを学ばなければ死して尚も鳥やバケモノと化しあさましい奪い合いを続ける。
そしてその心はずっと飢えたままだ。
そうならないために「人としての在り方」を学び「知恵を磨け」と言っている。
今人類は三たび大きな過ちを繰り返そうとしている。
この先眞人と同じような状況に置かれるかも知れないし理不尽な死に直面することもあるだろう。
だがどんな状況に陥ろうとその不運と思える事柄から何かを学べる心があれば苦難を乗り越えた時清々しくこの世を生き抜いたと幸せに思うのではないか。
そう言っているように想えた。
この世を曇りなき眼で見定めてきたひとりの繊細な芸術家の今至る境地が伝わってくる。素晴らしい作品だった。