劇場公開日 2023年7月14日

「エンタメから鑑賞するアートに昇華させたが故の難しさも(微ネタバレあり)」君たちはどう生きるか 麻布豆ゴハンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5エンタメから鑑賞するアートに昇華させたが故の難しさも(微ネタバレあり)

2023年7月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

萌える

スポンサーを付けずリミッターを完全に外した純度100%宮崎印のサクマドロップ。。ほぼ手描きのみの映像美、どこか幾何学的で無機質なCGの描写では決して味わえない、夢幻的なのに伸びやかなイマジネーションの洪水を浴びてきました。まるでルイスキャロルの描いたアリスのラビリンスの様な。。詰め込まれた描写と表現の質量にまだクラクラしています。

批判レビュー「映像は確かに凄いけど要は何が言いたいのかさっぱりわかんね😓つまらん駄作」
駿ちゃん「そうか〜わからんか?そりゃそうだワシにもさっぱりわからん!人生なんて大体そんなもんだ、わからん中でワシはこうやってもがきながらも描き続けて生きてきたが、さて君たちはこれからどう生きるのかね?😁」

そんな監督の苦笑が聞こえてきそうな。。なので、観客がわからんモノは駄作だ失敗作だ大人でもイミフなんだから家族子連れで行くなとか余計なお世話な批判厨は論外としても、韻文的な思考の方に長けた人や、美術や創作に子供の時からあまり興味が無いとか得意で無かった人には若干辛い2時間半かも知れません。。

だからと言って、吐いて捨てる様な物言いをする人達の酷評に左右されて観る観ないをも左右されるのは愚の骨頂です。
正に「百聞は一見に如かず」この美しい映像美は頭で考えずに先ずは体感すべきものです。言わば美術館で誰かの美術作品を鑑賞するのと同じ感覚です。

作品のテーマ云々については、敢えて言うならば『風立ちぬ』を最後の作品とするには消化不良とフラストレーションの溜まりまくった宮崎駿監督が、もう一度同じ主題↓で作り直した作品の様にも感じられました。

「まだ風は吹いているか?日本の少年よ」

「はい。大風が吹いています」

「では生きねばならん。」

死が目の前に転がっていた戦争の時代、対照的に美しい里山、飛ぶものへの憧れ、母への思慕と憧憬、富裕な民家や瀟洒な洋館のある風景、周囲に馴染まず孤独の匂いをまとった少年、、主人公には実際の宮崎駿少年そのものの体験した背景がかなり投影されている印象です。火と鉄と暴力と死の匂いが全てに付き纏った時代の中で、一人の少年が、夢を夢見た、その原点の心象風景。。

さて、興行的には完全な無宣伝にもかかわらず公開序盤は圧倒的動員だったものの、最終的には興行成績は伸び悩むのでは無いかとも想像しています。本作はやはり全体が紛う方なきアート作品であって、明らかに決して誰にでもわかり易いエンタメ娯楽作品では無いです。エンタメ娯楽は見る側が受動的に楽しめればそれで良いですが、アートは見る側の鑑賞力が試される部分がありますので、人によってはそれは苦痛でさえあるかも知れません。

公開初期の4日間は元々ジブリに思い入れのある人が多かったと思われ、それだけでも135万人は大した数字なのですが、後発でついてくる世のマジョリティが映画(特にアニメ作品)に求めるのは常にライトで明快な娯楽性だからです。

興収が伸びない事で作品の価値が減じる訳では全くありませんが、アートはそれが解りやすいとか、楽しいとかよりも直感に近い好悪の感性に帰結し、そこから「好」の感性で受け取れた人にはその作品はどんどんと理解や深掘りの探究対象となります。

絵画ならダリや草間彌生、物語なら不思議の国のアリスやネバーエンディングストーリーが、どんなに専門家の評価が高く定まっていても、刺さる刺さらないとかより、兎も角もコレ好きか嫌いか、でハッキリ分かれるのと同じだと思うのです。

もし本作の評判が日を追って鰻登りとなりマジョリティの中のリピーターが増えていき興収が国内だけで軽く100億を超えて行ったらば、日本人全体のアート感応性は想像以上に非常に鋭敏だった!お見それしました🙇‍♂️という事になりますが、恐らくそうはならないと見ています。

宮崎監督も鈴木Pも関わった全ての制作スタッフも、出来る限り多くの観客に観てもらいたい想いは当然ながら全く同じでしょうが、千と千尋超えとかそんな事まで意図して無いでしょう。それならこういう作品作りはしてない筈。或いは「シン・ナウシカ」でも作ったのではと思います。

麻布豆ゴハン
かせさんさんのコメント
2023年8月10日

ルイス・キャロルのアリスのようなナンセンスな世界は、皆が指摘されてる通りの監督の内面世界なんでしょう。

かせさん
うずまきさんのコメント
2023年7月28日

麻布豆ゴハンさん
フォローありがとうございます

本作と風立ちぬ のレビューも拝読いたしました
言葉のセンスが素敵です
サクマドロップ!

なんというか 若い頃に聞かされた大人からのうざったい教えを、当時はわからなくて何十年も経って全く無関係に見える状況から あ!あれこういう事だったか!って思う瞬間があるんですよね
この映画がわからないつまらないならそれも良しで、だけどゴミ箱に入れずしまっておくと

或る日 ああ!これか!というときが来るかもしれない
それもとても自分にとってなくてはならないものとして
本も歌も、そういう要素はあるはずだし
眞人の実母も、そんな思いで本を残したのだと思います
すごいスピードでその これか!を得てゆく眞人のようにはなれないけど、これが人の一生を反映していたとすれば

誰しも 時間がかかってはじめて解る 答え を ずっと考えながら生きるのだと思います

忘れてもいいから、引き出しにしまっておくのもいい映画だと思いました

風立ちぬ のレビューで書かれていた、
安易な口撃 に対する麻布豆ゴハンさんの思い、あたしもそう思います
イデオロギーとしては多分あたしは監督と違うのですが、だからといって単純な責めをレビューに上げるのも見ていて首を傾げます
長々すみません

麻布豆ゴハンさんって
名前もいいですね

うずまき
麻布豆ゴハンさんのコメント
2023年7月26日

humさん、こちらこそ宜しくです。
このイマジネーションの洪水は先ず理解しよう咀嚼しようとする大人は確実にジタバタしながら飲み込まれるだけで溺死ですね😅
観たそのままを感じられる子供さんの方がポニョの様に綺麗に波の上を走れそうです💦

麻布豆ゴハン
麻布豆ゴハンさんのコメント
2023年7月26日

クリストフさん、私も純度100%ジブリ印の中で唯一、監督と鈴木Pの悪い癖が声優役の選択だとは思ってます。キャラ設定への思い込みが強すぎるけど2人とも音や言葉のプロじゃない、絶対に無い。寧ろド素人のヘタの横好きに近い。だって理由が上手いよりその声優自身の存在感が欲しい、とか、ハレは要らないケが欲しいですから。真逆のことやっちゃってるのにオレたちが正しいと。だからキムタク、あいみょん、庵野、糸井重里、立花隆なんて選択をベストと思い込んじゃう。

ハウルでキムタク起用した時の理由が「いい加減な男、いろんなこと言うんだけど、真実味がない」だったそうです。ダメじゃんリアルで真実味のない男に頼んじゃ😅

麻布豆ゴハン
クリストフさんのコメント
2023年7月25日

純度100パーの駿印だとして、
何故に声優があんなにバラバラなのか腑に落ちません。

少なくともキムタクは外して欲しかった。

クリストフ
humさんのコメント
2023年7月25日

フォローありがとうございました。
イマジネーションの洪水!
まさに!!
アーティスティックな見応えのある作品でした。

hum