「ナイーブな問題に首を突っ込んでいる」しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司 みたらし旦那さんの映画レビュー(感想・評価)
ナイーブな問題に首を突っ込んでいる
取り扱った題材が現代の経済、恋愛的な弱者による凶行というナイーブなものだけにこのオチに批判意見が挙がるのは仕方がないと思う。私も批判の立場だ。あまりよろしくないと思った。そもそも今作のメッセージ性が子供の方を向いていように思う。
野原一家が平凡な一般家庭ではなく勝ち組家族とすら揶揄されるほど時代が変わってきた昨今、ヒリヤのような弱者は増加している。弱者による凶行もだ。
追い詰められた弱者はなぜ凶行に走るのか?それは劣等感があるからだ。「強者になれなかった自分が情けなく弱者でいることに甘んじている現状は不良である」という価値観があるからだ。人間は弱い生き物だからすぐ他人に責任転嫁をするしストレスを何かにぶつけようとする。その結果だ。
私見だがそういった「強者でなければならない。強者であるべきである」という私達が共有する内外的な価値観こそ弱者を追い詰める最も大きな原因であり、残念ながらこの作品はその価値観を助長するものになっていると思う。
幼少期に視聴する作品は価値観や人格形成に大きく作用する。この映画がとても影響力のある子供向け作品だからこそ「頑張れ!」という具体性のないただマッチョなオチを付けるのはやめて欲しかった。
イジメられた過去を改竄、記憶を無くす、状況の改善を応援などではなく「そういう生き方もある」「罪を犯していないならば生き方を恥じる必要はない」という容認のメッセージを同時に盛り込んでいれば違った評価もできたと思う。またそうすれば弱者に対しての社会的な容認の意識を広めることができ、凶行を防ぐ一助になるのではないかと思わずにはいられない。
この作品を見に行った人々がヒリヤを見て「社会に存在すべきではない哀れな悪役」「弱者は努力が足りない。改善すべき」といった独善的で安易な捉え方をしないよう祈るばかりだ。