「咲太はずっと頑張ってきたのです!」青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5咲太はずっと頑張ってきたのです!

2023年12月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

難しい

幸せ

テレビシリーズでハマり、ここまでの劇場版もすべて鑑賞してきた青ブタシリーズ。前作もよかったのですが、内容的に花楓メインだったので、改めて本作に期待して公開初日に鑑賞してきました。

ストーリーは、両親と離れて妹・花楓と二人暮らしをしている梓川咲太が、恋人・桜島麻衣の卒業を控えた3月、海岸で小学生の麻衣に出会うという不思議な体験をしたあと、父親からの電話で母親が花楓に会いたがっていることを知り、花楓とともに両親の家を訪ねるが、その日を境に周囲の人に認識されなくなってしまうというもの。

完全に一見さんお断りの展開で、清々しいまでに背景等の説明はありません。多少あったところで過去のさまざまな事象を短時間で理解することは不可能だし、観客は本作のファンが大半なのでこれでいいと思います。ただ、青ブタ初心者の方には、梓川家が別居している理由だけはあると親切だったと思います。

今まで思春期症候群に悩む周囲の人々を、絶妙な距離感でさりげなく支え続けてきた咲太。本作ではいよいよ彼自身が、自分と向き合っていくという展開です。なんとなく周囲の人と距離を取り、数少ない心ゆるせる友の前でさえ普段は喜怒哀楽を大きく表すことなく、無気力に見える咲太。場の空気を読み、相手を気遣う接し方は、彼の優しさであり処世術でもあったのでしょう。それは、家族に起きた出来事や学校での無責任な噂とも深く関わっています。それ故、彼の心のうちはこれまで語られてこなかったのだと思います。

しかし、そんな彼の中に彼自身も気づかぬうちに少しずつ降り積もるようにたまった思いがあり、それが母との再会を機に思春期症候群という形で表出します。これまで咲太は、花楓のために二人暮らしを選択し、家事もバイトも全て一人でこなして頑張ったのです。しかし、それが結果として母の目を花楓だけに向けさせることになります。頑張りを労われることもなく、母の目にも映らなくなった咲太の心中を思うと胸が苦しくなります。

でも、同時に花楓との二人暮らしを心地よい居場所と感じ、知らず知らずに両親と距離をおいてしまったのも咲太自身です。皮肉にも家族のあるべき形を崩してしまったのは自分自身であると気づき、改めて自身の気持ちと、病に苦しんだ母と向き合う咲太の姿が涙を誘います。そして、咲太を優しく包み込む麻衣の存在が温かく沁みてきます。婚姻届の伏線も素敵すぎます。

そんな美しい着地を見せた物語に、エンディング曲「不可思議のカルテ」が花を添えます。シリーズを一貫して流れるこの曲のおかげで心地よい余韻に浸っていたら、エンドロール後の映像でまさかの続編予告!これはもう今から楽しみすぎます!

キャストは、これまで同様の石川界人さん、瀬戸麻沙美さん、久保ユリカさん、東山奈央さん、種崎敦美さん、内田真礼さん、水瀬いのりさんらで、本作でも素敵な演技を披露しています。

おじゃる