劇場公開日 2024年8月30日

「純度100%山田尚子カラーの共感覚アニメ」きみの色 かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0純度100%山田尚子カラーの共感覚アニメ

2024年9月6日
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鑑賞方法:映画館

山田尚子監督脚本のオリジナル作品。

【ストーリー】
ミッションスクールに通う日暮トツ子は、子どもの頃から、人や景色が独自の色で心に映っていた。
バレエスクールの練習生、先生、クラスメイト、自然物すべて。
自分がほかの子たちとはちがうと気づいてからは、隠すようになったものの、生来の楽天家でいつでもふわふわしていた。
そんなトツ子には、つよく興味を惹かれる同級生がいた。
作永きみ。
黒髪の美しい、声楽隊の同級生。
トツ子には、きみがきれいな青に見えていた。
だけど、ある時から学内でその姿を見かけなくなる。
きけば、学校を辞めたのだという。
通学圏内の本屋のレジをしていると小耳にはさんで、トツ子は路面電車で一つ一つ、本屋を順ぐりにめぐる。
とある商店街で、ほてほて歩くかわいらしい白猫に誘われて、入り組んだ小径の本屋にたどり着く。
「しろねこ堂」
そこで、きみは、ギターをつま弾きながら、レジのバイトをしていた。
テンション上がりすぎて意味不明なことを口走るトツ子。
圧倒されるきみ。
そんな二人に、さらに声をかける者がいた。
影平ルイ。
ユニセックスな雰囲気をかもす、電子音楽にくわしい男子。
トツ子の目に、ルイもまた美しい緑色を放って見えた。
3人はバンドを組み、そして内から湧きいずるメロディを見せあい、次々に曲として昇華するようになる。

全編山田尚子カラー。
音楽と色とアニメの融合という、すごい快楽をさぐってきます。
主人公3人組、それぞれ背景はしっかり作られてますが、ドラマ性はそっと隠されています。
テレビアニメの『平家物語』とおなじ、筋立ては追うけど人間関係のきつい衝突の場面は伏せておく、あの語り方です。

この物語の中核は音楽と色と動きのケミストリーで、それは3人それぞれ体に流れてる色とメロディと心のはたらきのケミストリーとして表現されます。
プロになりたい、とかバンドとして評価されたい、といったモチベーションは描かれず、ひたすら互いのケミストリーからどんな曲が湧きいずるのかという部分に、フォーカスするんですね。
ゆえにストーリー性とドラマ性は弱く、物語を牽引するのは3人の仲のよさから生まれる音楽。
書きながら、えらい面倒な課題の仕事しちゃってるなあ山田監督、としみじみ思います。

でも、野心的、とか冒険的、というような意気込みではなく、山田監督がやりたい事やったら、この『きみの色』ができちゃった。そんなイメージを受けます。
もちろん音楽と演出は、こだわるだけこだわってますから、非常に高度ですよ、山田監督の真骨頂ですから。
YMO的でありながら、その後の80〜90年代の音楽シーンを思わせる、ネイチャー系の風格がそなわってます。
3人から生まれたインストっぽい曲は、シルクロードを思わせる民族音楽を作風にとりこんでいたバンド「ザバダック」の『椎葉の春節』を思い出しました。
ザバダック、何回もライブ行ったなあ……。

ドラマが弱いと言いましたけど、最後の聖バレンタイン祭のチャリティーライブは、完成曲でガツンと盛りあがらせてくれます。
それにしても、週一でフェリーで島に通う天守堂の美しさときたら。
あんな場所に、こんな3人が集まったら、そりゃ讃美歌の一つもできあがるでしょう。

山田監督の新しい足跡。
音楽が好きな方に、ぜひ。

かせさん
sazanamiさんのコメント
2024年9月17日

コメントありがとうございます。
ミスチルは好きですがあそこでは合ってなかったですよね。
テルミンを含むような音楽のほうが余韻に浸れた気がします。

sazanami
Geso_de_Nyoroさんのコメント
2024年9月7日

コメントありがとうございます。本曲は借り物かと思いきや、映画作品様に描き下ろした楽曲で、音楽監督も編曲に参加したのだそうです。なので作品に合わせて書かれた曲のハズですが‥‥実は個人的な感覚で、メジャーアーティストの楽曲はアニメ映画(ジブリやメジャーアニメ〈ドラえもんやワンピ等〉を除く)にそぐわないと感じております。

Geso_de_Nyoro
たつのこさんのコメント
2024年9月6日

音楽を描いた作品の醍醐味はやっぱりライブシーンですよね!
とても良かったです

たつのこ
りあのさんのコメント
2024年9月6日

コメントありがとうございます。
両手とも一本指はやはりわざとですよね。
ドラムっぽく叩くように演奏してるのかな、なんて観てました。

りあの