「美麗な映像と普遍的なドラマ」マイ・エレメント ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
美麗な映像と普遍的なドラマ
火、水、土、風の4元素を擬人化したアイディアが大変ユニークである。個人的には同じピクサー製作のアニメ「インサイドヘッド」を連想した。「インサイトヘッド」も人間の喜怒哀楽の感情を擬人化したアニメだったが、一般的にビジュアル化するのが難しいこうした抽象物を見事に視覚化した所に現在のピクサーの底力を見てしまう。
今回は燃え盛る炎や透明な水の表現が際立っていた。「モンスターズ・インク」の毛並みの表現に感嘆したのも遠い昔。ついに技術はここまで来たかと驚かされる。
また、エレメントたちが暮らすエレメント・シティの緻密な造形も素晴らしかった。ユーモアを凝らしたアイディアがふんだんに盛り込まれており、何度観ても楽しめる映像ではないかと思う。
一方で、エレメント・シティにはエレメント間の経済格差や差別意識がシビアに存在する。これも現在のアメリカ社会の鏡像として捉えれば実に興味深く受け止められる。ここ最近のディズニーは多様性というテーマを一つの潮流としているが、今回もそのあたりのことがしっかりと作品内で唱えられている。
物語もそつなく構成されており安定感がある。種族という障害を乗り越えて育まれるエンバーとウェイドのメロドラマ。父の呪縛に捕らわれるエンバーの自律。本作はこの両輪で構成されているが、最後まで手堅く作られていたように思う。
ただ、余りにも収まりのいい展開が続くため、クライマックスにかけて先が読めてしまうのは少々残念であった。
思うに、火と水を中心にしたドラマ作りが、若干展開を狭めてしまったような印象を受ける。他のエレメントをもっと絡めることで、更にスケール感のあるドラマにできたのではないだろうか。特に、土の存在感の薄さは勿体なく感じられた。せっかく水をせき止める砂袋のクダリがあったのだから、そこで活かせれば…と惜しまれる。
尚、個人的に最も強く印象に残ったシーンは、エンバーが幼い頃に見れなかったビビステリアの花を見に行くシーンだった。火のエレメントであるエンバーが水中深くに眠る花をどうやって見るのだろう?と思っていたら、その手があったかと膝を打った次第である。ここは美しい映像も見応えがあったし、その後の二人の触れ合いにも感動させられた。
また、ラストの一発逆転のアイディアも見事だと思った。物語を痛快に締めくくっている。
監督、原案は韓国系移民のピーター・ソーンという人である。「カールじいさんの空飛ぶ家」の同時上映だった短編アニメ「晴れときどきくもり」で監督デビューした人である。その繋がりなのか、今回は「カールじいさん~」の短編アニメが同時上映としてついている。
ソーン監督は今回の物語には移民一家に生まれた自身の少年時代が反映されていると語っており、本作にかける思いも並々ならぬものがあったのではないだろうか。
音楽は、数々のピクサーアニメを始め多くの映画音楽を手掛けてきたベテラン、トーマス・ニューマン。今回は全体的にインドっぽい曲調だったのが面白かった。後で知ったが実際にシタールなどのインドの楽器が使用されているということである。これまでのニューマンの作風とはまったく違う音作りがユニークだった。