「カメレオン俳優」ミステリと言う勿れ サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
カメレオン俳優
良くも悪くもいつも通り。
菅田将暉演じる久能整のキレは一層研ぎ澄まされているし、映像も音楽も邦画一の美しさ。かなり引き込まれて、全く飽きずに2時間強楽しめる。だけど、いつものテンションで映画化しているもんだから若干間延びしているし、なんならドラマだったほうがもっと綺麗にまとめれたんじゃないかと思ってしまう。やっぱり、バスジャックの回に勝るものは無いか...。
要素は多く、豪華キャストが勢ぞろいしている東宝の"本気作"なので見応えは十分。重鎮が顔を並べる中、注目の若手俳優・萩原利久と原菜乃華の演技合戦がすごい。美しい彼からは想像もできない、騒がしくも流暢な広島弁。すずめの戸締まりから継承された透き通った涙と、独特な声色。この2人の新たな一面が見れるだけでも大いに価値があります。久能整との会話も抜群に面白い。町田啓太も松下洸平も、役柄バッチリで最高のキャスティングでした。
予告で見せすぎているというのも相変わらずだけど、何にせよ本作、ひたすら会話劇で過去映像や断固たる証拠が少ないのがすごくモヤモヤしてしまう。よくもまぁ、そんな昔のこと覚えているなとも思うし、地に足付かず、頭の中で妄想を繰り広げているためミステリー感があまりない。意外にも丁寧な説明は無くて、気付いたら次の展開に移っているスピーディさが本作の良さをかき消しているように思えた。ドラマはもっと階段を上るようで綺麗にまとめられているんだけどな〜。
しかし、整が世間の悪習に一喝するシーンは健在。
相続争いがテーマになっているため、家族に関する持論を展開。子どもは乾く前のセメント。子どもの頃、あなたはバカでしたか。胸を刺すセリフがどんどん溢れ出てくる。これを見ると菅田将暉の俳優人生、1番のハマり役なんじゃないかと思ってしまう。この長いキャリアでまだまだ跳躍し続ける彼も凄まじいし、こんな名言を毎回生み出す原作者には敬意を表したい。犯人も正義を持って生きている。悪を完全に悪だと思えないこの作品には、本当に頭が上がりません。
もし、ドラマでこのエピソードが描かれていたらとか、原作はどうなっているんだろうとか、見た後気になって仕方なくなった。ハッキリ言うと、映画だから特別なことがある訳でもないし、いい部分はドラマからの継続であるため、評価は役者とセリフに対してがほとんど。面白いことに違いは無いけど、傑作とまではいかないかなって感じでした。でも、すごい集客。また映画化されるだろうね。
反響の高さを感じるほど、場内びっしりの中、席に座りました。コロナ後、はじめてかも、こんなの。と思いながら。
整くんは菅田さんに降りてきた運命、使命のように、彼ならではのこなしぶりが鮮やかですね。見惚れます。そして語る言葉の人柄がでる丁寧さ、公平なおもいやりを感じる中味のある説得力に憧れますね。
ドラマと並行に、時々スケールを生かした映画が続くのが私の理想かも…。