「まるで我がことのような映画」VORTEX ヴォルテックス 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
まるで我がことのような映画
「サスペリア」や「フェノミナ」など、少女を虫漬けにすることで有名な(?)ホラー映画の巨匠・ダリオ・アルジェントが主人公を務めた異色作でした。
フランソワーズ・ルブラン演じる母(妻)と2人で生活するダリオ・アルジェント演ずる父(夫)。母(妻)は認知症が急速に悪化しており、息子すら認知できないことも。一方父(夫)は数年前に心臓を病み(恐らく心筋梗塞)、その持病が完治していない状態。映画の冒頭で、「心臓より先に脳が機能しなくなった人」みたいな字幕が出て来ましたが、認知症で脳を侵された母(妻)と、心臓病を患う父(夫)の、いわば”終活”映画でした。
個人的な話になりますが、この主役の老夫婦、自分の両親と類似点が多く、まずはその点で他人事とは思えませんでした。本作の父(夫)は、うず高く積まれた本に囲まれて生活しており、公的な介護サービスを受けるのも否定的、そして前述の通り心臓病を患っている。我が父も、この点で全く同様で、相違点としては浮気相手がいるかいないかくらい(実は私が知らないだけかも知れんけど💦)。本作の母(妻)は、元々医者だったようですが、今では認知症が進行している。我が母は、医者ではありませんが薬剤師で、本作の母ほどは認知症が酷い状態ではないものの、その進行過程にあります。
出来れば施設に入るなり、そこまでしなくとも、介護サービスを受けるなりしてくれれば少しは安心なものの、現状の生活を変えたくないと思う老夫婦の考えは、洋の東西を問わず共通しているようで、実に身近な話に感じられました。
本作では、最終的に老夫婦が亡くなります。人間誰しも避けられない運命とは言え、天寿を全うするというか、安らかに眠って欲しいと思うのが人情ですが、中々そうならないのも現実。自分の両親のこと、そして自分自身のことを含め、今何をすべきなのか、そしてこれからどうしていくべきかを改めて考えさせられた”教育的映画”でした。
こうした内容はさておき、中々興味深かったのが本作の画面構成。左右2分割して、一方で母(妻)を映し、もう一方で父(夫)を映し、2人の行動が同時に観られるというのは、テーマ的に静かな作品でありながら、臨場感たっぷりに感じられました。
また、ホラー映画の巨匠であるダリオ・アルジェントを主役に据えるというキャスティングも面白く、内容的にも演出的にも俳優陣も、あらゆる点で趣向を凝らした良作でした。
そんな訳で、評価は★4とします。