「ボーイッシュな短髪も良い、しかもあの美尻…しかし等身大の女性を息を呑む巧さで魅せるその演技力、その存在感がスクリーンから目が逸らさせない…正にレア・サドゥの映画だ。」それでも私は生きていく もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
ボーイッシュな短髪も良い、しかもあの美尻…しかし等身大の女性を息を呑む巧さで魅せるその演技力、その存在感がスクリーンから目が逸らさせない…正にレア・サドゥの映画だ。
①シングルマザーで同時通訳を生業とするキャリアウーマン、だが病気の父を高い施設に入れられるほど裕福ではない。仕事をし、子供を育て、その合間に神経変性疾患という不治の病に冒された父親の面倒を見、入院・入所することになれば出来るだけ見舞いに訪れる、私たちとさほど変わらない生活を送る女性の人生に訪れる喜怒哀楽の機微をレア・サドゥはきめ細かな演技で体現する。
そういう話だから特にドラマチックなことも起こらない。
敢えて言えば不倫の恋の行く末が気になるくらい。
バスの中で、一度は妻子の元に戻ったクレマンからの復縁を願うメッセージを見た後の嬉し涙にくれる表情が誠に素晴らしい。
レア・サドゥの佇まい・一挙手一投足で映画を最後まで引っ張っていく近頃では少なくなった女優で魅せる映画だ。
②勿論、監督の確かな演出力がなければ彼女の演技もここまで生きなかっただろう。特に何気ない日々の描写にその上手さを見せる。
クリスマスの日の(欧米の)どこの家庭でもありそうな、子供たちにサンタが来たように思わせるために(子供達が信じたかどうかはともかく)大人達が演技するシーンの自然さに演出の巧さが光った。
③“自分が出来ることが段々少なくなっていく、自分の人生にとって何よりも大事な読書が出来なくなる”、という自覚を切々と語る父親の独白が切ない。
神経変性疾患か認知症かアルツハイマーかわからないが、いずれ自分もそうなるのではないかと身につまされる。
「その人の選んだ本を見ればその人が分かる。それを組み合わせていけば、その人の全体像が浮かんでくる」(ちょっと違ったかな?)という台詞が、本好きな私には響いた。
④一応ハッピーエンド的な終わり方にはなっているが、勿論人生はまだ続いていくわけで、父親の病状は更に悪くなっていくだろうし、娘も大きくなっていくに従って問題も増えてくるだろうし、クレメンとも今の関係が続いていく保証はないし、結局壊してしまったクレメンの家族の問題も後々跳ね返って来るかもしれない。
でも今は、そういうことを全て呑み込んでも前に進むしかないじゃない、という余韻というか余白を感じさせる。
そういう意味でも“大人”のフランス映画だ。