劇場公開日 2023年11月3日

「三丁目のゴジラ 永遠の−1.0」ゴジラ-1.0 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0 三丁目のゴジラ 永遠の−1.0

2025年8月30日
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鑑賞方法:映画館

単純

世間的には大ヒットし非常に高く評価されたようだが、僕は大変不満な出来だった。まずVFX(特撮)はすごい。ゴジラの放射能熱線で東京の街が吹っ飛ぶところとか、重巡高雄とゴジラの戦いなんかは着ぐるみでは表現できないものだろう。高雄の他にも駆逐艦雪風とか幻の戦闘機震電とかミリタリー・マニアの心をくすぐるようなネタが多く、山崎貴監督(脚本も単独)もかなりのミリタリー・マニアなんではないかと思われる。

その一方で肝心のドラマ部分というかストーリー部分には不満が多い。テレビCMで第1作と同時代の戦後間もなくを舞台としたゴジラ初の時代劇?だとなんとなくはわかったが、なんと第1作の1954年よりも前の1947年が舞台だった。そのため第1作とも微妙に状況が異なり、まだ自衛隊の前身の警察予備隊も発足しておらず、GHQが日本の占領政策を行っていた時代となる(GHQの廃止が1952年。警察予備隊の発足は1950年で保安隊への改称が1952年、自衛隊への改称が1954年)。ところが非常に不自然かつ無理やりな理由でGHQがゴジラに全く対処せず、軍備を持たない日本政府も民間に丸投げする。じゃあGHQや日本政府がゴジラのやってくる東京から、あるいは日本から逃げ出すのかというと特にそういう描写もないため、彼らは頼りになりそうもない民間人に丸投げしなからゴジラが来る東京でただじっと待つということになり、不自然きわまりない展開になってしまっている。普通に考えればGHQが米軍を動かしてゴジラに対処するだろう。もちろんそれでは米国人が主役になってしまうため出来なかったんだろうが、あまりにご都合主義な展開だ。山崎監督は『シン・ゴジラ』があまりにも完璧だったんで現代や近未来を舞台にしたものは作れないと、舞台を第1作に近い昔に設定したらしいが完全に裏目に出てしまったようだ。

また主人公たち市井の人々の物語とゴジラとの関係性があまりに希薄なのもどうかと思う。前半は主人公とヒロインと周囲の人々の人情話みたいなのが延々描かれるが、基本ゴジラはそこに関係がないのでゴジラ映画なのにゴジラが蚊帳の外に置かれたような描写がわりに長い。そもそもこの映画、ゴジラの立ち位置というか位置付けがいまいちはっきりしない。1作目のゴジラは“戦争の象徴”とか“核の象徴”というべき存在だったが、本作ではそういう雰囲気は希薄。むしろ主人公たちがゴジラに立ち向かう行為が疑似戦争として描かれるし、水爆実験でゴジラが生まれるのは踏襲してるものの、ただそれだけで人々は誰も核兵器に言及しないしそもそも核にも放射能にも無頓着というか無関心に見える。ゴジラがなぜ生まれたかにも人々はほとんど関心を示さない。だいたいにして主人公とゴジラの最初の因縁がゴジラが放射能を浴びる前の恐竜?段階だから、本作のゴジラは単なる“恐怖の象徴”でしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。要するにすっげえ怪物というただそれだけなので、あれだけ大暴れしてるわりにゴジラの存在感が薄く、ほとんど脇役である。怪獣映画はドラマ部分が薄くなるという弱点があるんでそこに力を入れたんだろうが、逆に肝心の怪獣が薄くなるという皮肉な結果となってしまった。

登場人物に悪人や嫌なやつが1人もいないというのもなんだかなあ。焼け跡の闇市にも悪いやつが1人も出てこず、ヒロインは縁もゆかりも無い赤ん坊を育て、主人公もその縁もゆかりも無い2人を養い……なんて、いくらなんでもあの戦後の混乱期にそんな美談は嘘くさすぎる。『三丁目の夕日』じゃねーんだからさ。いや『三丁目の夕日』も原作マンガでは確か悪いやつは出てきたはずだ。

死に遅れた特攻隊の生き残りが再び戦うというのもどこかで何度も観たような展開だが(『ゴジラの逆襲』もそうじゃなかったかな)、主人公ばかりでなく旧日本海軍の元軍人たちが旧日本軍の兵器でゴジラと戦うという展開なので、戦争中の指導者を批判して戦前戦中との決別を謳いながら元日本軍のリベンジマッチのようにも見えてしまうというところもどうも引っかかった。こうすれば太平洋戦争に勝てたというif小説の感覚に近いと言いますか。そしてこれは当然のことかもしれないが、多くの日本の戦争映画と同じく日本による加害の側面は全く抜け落ちている。戦中日本の兵の命を省みない無謀な作戦を批判して、対ゴジラで1人も死なせない作戦を取ると言いながら、その作戦は無謀そのもので特攻めいてるのも矛盾してるし、それでいて結果的に1人も死なないというのもあまりにご都合主義で、平和ボケした頭がお花畑の戦争映画みたいになっているのもかなりどうかと思う。そもそも1人も死なない戦争なんてありえないわけで、それ自体がきれいごとというかなんというか。

他にも重巡1隻と駆逐艦4隻と民間船だけで倒せるんならゴジラそんなに強くねーんじゃねーかとか、これは確信犯だろうけどゴジラがくわえた電車から落ちそうになったヒロインが『ミッション・インポッシブル』のイーサン・ハント完コピのアクションを披露するのは笑っちまったとか、いろいろと不満がある。何やら世間や米国では大ウケのようだが僕はダメでした。

バラージ
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