「「生きろ」というコピーが使えそう」ゴジラ-1.0 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
「生きろ」というコピーが使えそう
ゴジラ映画ですが主役というか主軸は特攻から逃げた男、敷島(神木隆之介)のDeath Wishです。
脚本が工夫され、アメリカも日本政府も介入せずに民間でゴジラをやっつけなきゃならない羽目になっており、その舞台設定を得て典子(浜辺美波)と機雷処理チーム(佐々木蔵之介・吉岡秀隆・山田裕貴)が躍動的に絡みます。
過去いちラギッド(ギザギザした)なゴジラで、アトミックブレスの支度をするとき、背鰭がしっぽから順番に燐色へ変わっていきます。
野田(吉岡秀隆)が考案した加圧と減圧で膨縮させるわだつみ作戦がだめで、海上へふたたび出てきたゴジラの背鰭が1本1本青く光っていき、口腔へ燐光がのぼったアトミックブレスの瞬間、甲板にいる全員が「ああもうだめだ」という表情をします。
そのとき敷島の震電が滑翔してくるのです。ほとんど叫びそうになりました。秋津(佐々木蔵之介)が「逝っちゃだめだ敷島あきちゃんどうすんだよ」みたいなこと叫びます。
先尾翼の震電の形状はゴジラの口腔に刺さるにはぴったりです。刺さって爆発して「ああ敷島」と思ったら予測をひるがえすようにパラシュートがおりてきます。
典子が生きているのもいい意味の裏切りですごく練られた脚本だと思いました。
大胆な端折り(はしょり)と相関になっていて、ゴジラが銀座に現れたとのニュースの次のシークエンスでは敷島は銀座の雑踏から典子を見つけ出してしまいます。敷島と典子は夫婦ではなく明子はどちらの子供でもありません。飛躍と奇想にもかかわらず、ドラマはリアルで胸を焦がします。
神木隆之介は古き良き日本人らしさと強さと弱さが共存していました。昭和をまとった浜辺美波はまるで高峰秀子のようでした。
映画が言いたいのは生きろということだと思います。“生きろ”といえばさまざまな映画に使えそうなコピーでじっさいもののけ姫などで使われていますが本作は生きろコピーがひじょうにしっくりくる映画だと思いました。畢竟これは永遠の0の続編だと思います。思い返せば永遠の0で久蔵(岡田准一)が特攻していくシーンと敷島がつっこむシーンは表裏のように重なるのです。だからあの時は死にに行ったけれど、もう生きるんだというメッセージを感じたのです。敷島のDeath Wish(死への願望)が昇華され、映画的にも消化されたと思います。
また政府が頼りなく描かれ、秋津も逐一日本政府を腐し、このスタンスはさいきんの内閣支持率をかんがみるとひじょうにタイムリーだと思います。
見事な映画でした。
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2023年12月1日に全米公開されたそうです。
imdb8.5、RottenTomatoes98%と98%。
七人の侍やSpirited Away(千と千尋の神隠し)と同レベルの日本映画の最高値と言っていい評価点をつけています。
少ない採点者ゆえに高得点になっているわけではなく、批評家と大衆の採点に乖離もありません。(こまっしゃくれた批評家にも庶民にも好かれているということ。←重要なことだと思います。)
強く太い確かな支持でした。
RottenTomatoesには、絶賛の言葉──
「まちがいなく今年のベスト」や「今年最高のファンタジーアクション」などは多数あり、小船舶の協力をダンケルクと言ったり、背鰭を出して迫り来るのをジョーズと言っているのもありました。
「初めて泣いたゴジラ映画であり初めて恐怖を感じたゴジラ映画」との評、類似評も多数ありました。
「史上最高のゴジラ映画」とか「最高のモンスター映画」とも言われていました。
放射能つながりで「オッペンハイマーのとんでもない続編」と言っているのもありました。
さらに──
「日本の VFX の魔術師山崎貴が心を込めて時には畏敬の念を抱かせるここ数十年で最高の怪獣映画をお届けします。」とか、
「ゴジラ マイナスワンは、地に足の着いた人間ドラマ、恐ろしいモンスターのビジュアル、一流のサウンドデザインを詰め込み、2023 年の最高の映画の 1 つを生み出しました。」とか、
「この見栄えがよく、エキサイティングで、驚くほど感情的なこの映画は、第二次世界大戦後の日本を舞台に、胸が張り裂けるような絶望と新たに見出した希望の両方を活かすことでその力を発揮しています。」
──など、ヒューマンな側面や感動を褒めちぎっている評も多数ありました。
すべての評において特徴的なのは必ず驚嘆が交じっていること。まちがいなくダークホースでした。