劇場公開日 2023年1月20日

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「脚本と映像の巧みな味付けは、日本映画ではとても無理そうです。ただし暴力場面は血のりが多くて、しつこく痛い。ここは好みが分かれるところですね。」パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0脚本と映像の巧みな味付けは、日本映画ではとても無理そうです。ただし暴力場面は血のりが多くて、しつこく痛い。ここは好みが分かれるところですね。

2023年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 並外れた運転技術を持つ女性ドライバーが活躍する韓国のアクション映画「パーフェクトードライバー 成功確率100%の女」が20日公開されました。米アカデミー賞作品賞の「パラサイト 半地下の家族」の娘役で注目されたパク・ソダムが、ヒロインをクールに演じています。

 主人公の天才的なドライビング・テクニックを持つウナ(パク・ソダム)が勤めるペッカン産業は、表向きには釜山で廃車処理場を運営しているが、裏ではどんな荷物も配達する“特送”の仕事を請け負っていたのです。
 「“特送”は郵便や宅配で送れないモノをあらゆる手を使って届けます。万一の場合?配送以外の責任は取れません。ただ、何があっても必ずお届けします」というのが、ペク社長(キム・ウィソン)の売り言葉。
 そのペク社長からの指令でウナが引き受けた依頼。それは海外ヘの逃亡を図る元プロ野球選手で賭博ブローカーのキム・ドゥシク(ヨン・ウジン)とその息子ソウォン(チョン・ヒョンジュン)を港まで運ぶこと。
 しかし、違法賭博の元締めであり警官のチョ・ギョンピル(ソン・セビョク)が部下を引き連れて現れ、追い詰められたドゥシクはソウォンをウナのもとに逃がします。依頼人のドゥシクが不在のまま、ウナは身寄りのないソウォンと300億ウォンが入った貸金庫の鍵を抱えて追われる羽目に。
 貸金庫の鍵を狙う悪徳警官、冷酷非情な殺し屋、さらには「脱北」の過去を持つウナを秘密裏に調査する国家情報院までをも巻き込んだ、命がけの追走劇が始まる…という話の骨格は定石通りです。悪徳警官がカギを狙い、ウナが脱北者と分かって国家情報院も参戦。追いつ追われつの仕掛けはなかなか上々でした。

 カーチェイスは映画の華。スピード感と迫力が、画面を大いにもり立てます。依頼された”荷物”を送り届ける運び屋映画が次々と作られるのは、その見せ場を存分に楽しめるからでしょう。新しいアイデアを盛り込もうと作り手も腕を振るい、ハズレが少ないと思います。

 お国柄も表れます。派手な衝突や爆発で画面がにぎやかな米国流は、スケール感が持ち味。欧州では、石畳の狭い路地を縫って疾走するスリルが強調されます。車が何台も潰れるからそれだけで製作費もかかるし、公道での撮影も大がかりで、撮影条件が整わないと作れません。その水準に、韓国も追いついてきました。緩みのない展開もさることながら、画作りのうまさで一気に見せてくれるのです。

 本作の見せ場はもちろん、カーチェイス!
 坂の多く狭い路地が交錯する釜山の道を緩急付けて走り抜け、幹線道路を疾走するウナをダイナミックなカメラの動きで見せてくれます。カースタントの華麗さ、ウナの運転技術を示す細かいカット割り。車に乗せた”荷物”が驚く表情。セオリーを押さえつつヒネりを加え、映像はどれもカッコよかったです。わたしが大好きなジェイソン・ステイサムでも脱帽でしょう(^^ゞあれを若い女優に演じさせた発想が新鮮。年の離れた姉弟のような絆が芽生えるウナと少年の逃避行は「グロリア」を彷彿とさせます。
 売り物のカーアクションも派手さを追求せず、路地や駐車場を舞台にしたコンパクトな設計が功を奏して切れ味抜群です。華麗な運転テクはもちろん、ウナがとっさに繰り出すサバイバル術が随所に描かれ、魅力的なヒロイン活劇となりました。

 またあどけないソウォンをあざとく絡ませた情感や、ペッカン産業の社長と黒人のメカニックら周囲に配した人物たちのアクの強さも、いい具合でした。
 アクションだけでなく、後半はウナの生い立ちにも触れてグッとエモーショナルな描写もしっかり描かれていました。ウナは一見とても強く芯のしっかりした女性ですが、痛みや悲しみを内に抱えていたのです。ソウォンと出会い、本来のウナが現れていく過程が興味深かったです。
 脚本と映像の巧みな味付けは、日本映画ではとても無理そうです。ただし暴力場面は血のりが多くて、しつこく痛い。ここは好みが分かれるところですね。

流山の小地蔵
YOUさんのコメント
2023年1月26日

自分も「こりゃ日本じゃ撮れないな」と思いました。(残酷表現だけでなく)
と同時に、こういうのを撮れる(書ける)人も環境もなくなった日本を残念に思います。

YOU