「マイナス要素を差し引いても」非常宣言 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
マイナス要素を差し引いても
ハイジャック。
バイオテロ。
感染被害を恐れた空港は着陸を拒否。
韓国有名俳優登場。
予告編に並べられたこれだけで十分期待値が上がってしまうが、その期待値を上回る凄いパニックムービーだった。
アクションはもちろん、観ている観客の喜怒哀楽、恐怖と絶望、安堵や諦め、そういったすべての感情が次々に引きずり出される様なドラマ表現。
その一つ一つの熱量がものすごい。
機内と地上、それぞれで展開する奮闘のバランスも良い。光の動きや明滅でいろいろな表現をする辺りも「憎いね、こんちくしょう!」と思わされた。
特に映画前半のドキドキと不安はそれだけで十分というくらい。
今年の劇場一発目に選んだ作品としては、以下に挙げる「そりゃ、ねーだろ」を差し引いても、2時間以上という時間をほとんど感じない、十分に「傑作」と思える映画だった。
(ここからネタバレ)
十分楽しんだものの、気になったこともかなりある。
…というより、物語の流れ、特に後半はかなり雑。
まずは報道管制がかなり「ずさん」。
日本とは慣習も違うのは分かるけど、発表の仕方とか、機内との通信が駄々漏れとか、そりゃ、国民はパニックになるよね。
日本はこのウイルス汚染された機に着陸を許可しない訳だけど、さすがに民間機に対して自衛隊機が空港付近で攻撃するとかはあり得ないよね。
威嚇射撃だとしても、もしこの機が操縦を誤って墜落でもしたら(海上ならともかく今回は成田空港)、その片付けやらで国内への感染のリスクははるかに高まるわけだし。
ただ、日本を一方的な悪者に描いているということではなく、その後自国でも同じことになることも合わせて、コロナ禍を踏まえた世界的な流れの象徴的な出来事として、個人的にはフラットには描かこうとしている様に感じた。
(ただ、反応しちゃう人もいるんだろうな。)
刑事の身を呈した治験(ここに至る経緯もかなり強引)でワクチンの有効性が確認されて着陸を受け入れるという流れについて、「たった1人の症例、その後の後遺症も経過も確認せずに『効果あり』『着陸許可』とはいかないだろ」とは思うよね。
表現でいうなら、あの女性大臣はむしろストーリー的には主役級に活躍する訳だし、もっと掘り下げて描いたほうが、ラストに向けたシーンはグッとくるはず。
機内の感染について、実験でラットがあれだけバタバタ死んでて、それをより強化したウィルスだったんだし、あの感じならかなりの死者が出てるはずなんだけど、乗客が死んでいくシーンがすごく少ないので、どのくらい死者が出ていて、どのくらいの恐怖が機内を襲っているのかが、想像しにくかった。
あと「私達は着陸しません」って、じゃあ、どうするつもりだったんだろう。ま、海に墜落って感じなんだろうけど。
この機はそもそもずっと「この先どうする」を決めずに飛んでいる。いや、決めてはいるけど、その先がまったく無計画。
感染者がいるなら当然事前に空港に受け入れ態勢を確認するだろうし。まさかホノルル直前で引き返すことにはならないはず。
そもそも「非常宣言」の用語解説を冒頭に入れたのはなぜだろう。
いったん物語が終息した様に見えたけど、「あれ?まだ『非常宣言』出てないよね?あ、まだ何かあるんだね。」っていう感じは(上映時間が気にならないくらい楽しめていたので)むしろ邪魔だった。
結局その「非常宣言」の効力もよく分からなかったし。
ま、でもそんなコトは「文句言いたがり」がつつく『重箱の隅』。
(ちょっとつつき過ぎたかな。)
乗客と一緒に、諦めと安堵の涙を流しましょう。