「ねかはくは はなのもとにて 春しなん」春に散る ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
ねかはくは はなのもとにて 春しなん
「ボクシング映画に不出来なし」の約定は
今回も守られた。
何を置いても、
選手は当然のこと、ジムの構成員、会場に集う観客、
それらのボクシングを愛する全ての人々の熱い思いが画面から溢れ出す。
単に金儲けの手段として安直に、
または策を弄して楽に頂点を目指そうとする者は
本作を観て眼を洗った方が良かろう。
勿論、頂点に立つには、
才能、努力は当然のこと、
周囲のバックアップ、運や時代も味方に付けねば。
ほんの一握りはが君臨するその場に立てても、
当人が本当に偉大であったかの評価は
後世が決めること。
一時は寵児ともてはやされても、
既にその名声が地に堕ちているなんと多いことか。
他方、一瞬であっても、
忘れ得ぬ輝きを放つ選手も間違いなく存在する。
過去と現在でそうした記憶に残る二人の
素晴らしいストーリー。
日本のボクシング界に辟易し
アメリカに乗り込んだものの自身の限界を悟り引退、
その後ビジネスで成功した『広岡仁一(佐藤浩市)』が
数十年振りに帰国する。
一方で、やはり不可解な判定に自棄になり
一度はボクサーの道を諦めた『黒木翔吾(横浜流星)』が居る。
二人が交わることで物語が動き出すのは、
古典である〔あしたのジョー〕を引き継ぐ流れ。
また、ここでも
「クロスカウンター」がそのきっかけとなるのは、
ある意味、リスペクトからか。
もっとも、そこからの流れは少々ありがち。
『広岡』には『広岡』の
『黒木』には『黒木』の過去があり、
それがボクシングの場面と同等に描かれる。
初期のライバルと後期のライバル、
主人公を襲う引退の危機となる疾病。
どれもがお決まりとも言え、
見慣れたエピソードの数々。
独自の味付けがありはするものの。
ただそうしたドラマが無く
拳闘の場面ばかりでは
物語りが薄っぺらいものになってしまうだろうが。
それらが事前にすんなんりとインプットされているほど、
闘技の場面がより盛り上がるというもの。
最初はボクサーのお話と思っていたが、
どうやら本作は伯楽の生き方に重点が置かれているよう。
将来を嘱望される若者でなくとも、
先短い老人でも、
十分に心を打つ物語りにできるとの。