パラダイス 半島のレビュー・感想・評価
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パラダイス/スローライフと/生まれた句
終盤まで、何も起こらない。
畑仕事をして、食事をして、麦茶(酒ですらない)を飲んで、駄弁って、寝る。繰り返し。
そんな生活に、時たま『逃亡中』という言葉が過ぎる。
真英の休養はまだしも、残り二人の背景については何も語られない。
東京の実家住まいの夕起が、期限も決めずに何もない田舎に泊まりにくるのは闇を感じます。
最初は「変な人」と言っていた竜に、「一緒に逃げてもいい」という理由も分からないし…
竜も、「良い人だった」と語る先輩を突き落とした理由は明かされない。
「何で俺が」とか「またここに来てもいいだろ」とかも相まって、一気にサイコパスにしか見えなくなった。
真英も、夕起がテーブルに足乗せたり竜を呼び捨てにするの注意しないし、どっかおかしいんだよなぁ。
真英が俳優に復帰したかどうかは不明だが、一句できたことが唯一前向きな要素か。
(竜の告白と自首、夕起の一人暮らしも?)
ほぼ三人しか出ない割に、心情や背景が読み取りづらく、受け取り方が分からない。
ただ、スローライフ感のあるゆったりした時間の雰囲気はよかった。
屋外で急に日が翳るような色彩の変化も素晴らしかったが、あれは偶然だろうか。
雨音の響きが耳に残る。リアルな温度感を持つ映画。
雨音の響きが耳に残る。いままさにどこかで起きていることのような温度感を持つ映画。
主人公真英も、姪の夕起も、竜も、みんなどこか足元がおぼつかないような不安定さと頼りなさを持っていて、お互いに寄りかかり合っている。いま私が生活しているのと同じ世界線の、さほど遠くないどこかで起きている出来事として捉えられるほど現実味を帯びた映画だった。
物語は、休養中の芸能人の真英と遊びに来ていた姪の夕起のもとに、事件を起こし逮捕勾留中のところ逃走してきた真英の友人・竜がやってくる、というもの。
印象的だったシーンがいくつもある。冒頭のトラックで真英が畑につくシーンでは、トラックの窓からタバコの煙がふわりと浮かぶのが見える。トラックを降りた真英が、まとわりつく虫を祓い、いつもそうしているように畑に入っていく姿が印象的だった。その後には空や畑など登場人物たちが生きる町の姿が短いカットでいくつか映し出される。それらはなにげない日常のはずなのに、とても魅力的に見えた。
夕起がヘルメットを被ったまま海辺の岩場を歩くシーンも印象的だ。ヘルメットを被った大きな頭を揺らして、不安定な足元の岩場をずんずん進んでいく。どこか滑稽で、可愛らしくて、ずっと見ていたくなるような目が離せなくなるシーンだった。
後半、トラックの中で真英と竜がタバコを吸うシーンも印象に残っている。タバコの火を分け合って、煙を吹かし話をする車内、窓に当たる雨音が強く響いていた。その時の会話以上に、並んだ2人の姿と雨音が強く耳に残っている。
本作品を通して、物語はもちろん、画の美しさに魅了された。何気ない日常、それでいてどこを切り取っても画になる美しい映画だった。
本作は、観ていてドキドキハラハラさせられるわけでもないし、大きな波があるわけでもない。確実にじっくりと流れる時間の中で、登場人物たちがとてもリアルにそこ存在している。演技か演技ではないのかわからないほどニュートラルな姿は、役者をとても魅力的に見せる。登場人物たちがそこに息づく温度を体感できるような魅力的な映画だった。
はみ出してしまった人たちへ
世間からはみ出してしまったかも、と感じている人にぜひ見て欲しい作品です。
過去に多忙な仕事に限界を感じ、突発的に辞職してしまったことがあります。その後私を待っていたのは、自由な日々ではなく焦燥・孤独・迷いでした。
真英や夕起もそうだったのかな?と思いました。自分がしたいことは何となく分かっている。でもそれを絶対にやりたいという訳ではないし、正しいかも分からない。半島で過ごすことによって、体は元気になっても心の方はどうなのか。希望に満ち溢れている人にとっての『時間』はありがたいものですが、心が元気でない人にとっての『暇』は意外と怖いものです。
そんな状況で2人の背中を押したのが、竜の存在だったのではないかと。最終的に背中を押された理由は決して良いことではなかったですが、真英が拙くても俳句を書くことができたこと、それを夕起と笑い飛ばすことができたことが全てなのかなと思います。
真英が島を出た際にいなくなり、真英が島に戻ってきた今になって帰って来たロンの存在が、真英にとっての人生の筋みたいなものを表しているのかなとも思いました(ロン役の犬の本名がリュウだったのももしかして?)。
話が少しズレますが、夕起という名前もとても良いですよね。朝に起きて行動できなくても、夕方に起きて動き出しても良い。この夕起という名前そのものも、朝に起きられなかった=世間からはみ出してしまった私たちの背中を押してくれている気がします。
さらに話は変わりますが、真英の人の良さも心に沁みました。言動に愛情が滲み出ていて、身の回りで家族を含めあんな風に接することができる相手がどれだけいるだろうと。夕起と竜もそんな真英がいるからここに来てしまうのだろうなと思いました。そんな3人の関係性は通常なかなか手に入るものではなく、見ていてとてもうらやましい気持ちになりました。竜に対しては様々な疑問がありますが、夕起と逃げることをせずに最後に2人へ真実を告げることができたこと、そこに半島での3人の生活の意味を感じました。いつかまた、ここで3人が再会する日もあるのではないかと思いました。
まだまだ自分の中で消化できていないことがたくさんあるので、もう一度見たいと思います。
最後に、稲葉監督は本当にメインキャスト3人のことが大好きなんだなと思いました(笑) 私は染谷さんのファンですが、ファンがこんな染谷さん見てみたいなと思っていたところをたくさん見せてくださって、きっとそれは立川さんや吉田さんのファンもそれぞれ同じ気持ちになったのではないかなと。とても監督のキャストへの愛を感じる作品でした。
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