劇場公開日 2023年6月17日

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「ウクライナの苦悩を見事に映像化」世界が引き裂かれる時 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ウクライナの苦悩を見事に映像化

2023年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これはすごい映画だ。現在続くロシアとウクライナの戦争は、昨年始まったかに見えるがその火種はずっと前からくすぶっていたのだということを描いているという点でも貴重だが、一本の映画としての芸術性が大変に高い。
2014年にドネツク州で起こったマレーシア航空の墜落事件をめぐって新ロシア派と反ロシア派の対立が浮き彫りになる。妊娠中の主人公が住む家はその対立に巻き込まれ家が爆破され、壁に大きな穴が出来てしまう。その穴からは広大で美しい大地が見えるが、点在するのは武装した男たち。このショットの構図が抜群に素晴らしい。広大な空間は開けているように見えるが、精神的にはどこにも行けない閉じられた牢獄である。ここで怯えながら、武装集団に従い生きるのか、それとも脱出するのか、その厳しい選択を迫られる様は、今のウクライナに住んでいる人々のことを思わざるを得ない。
本作はとにかく絵がいい。横にゆっくりと移動する移動撮影で美しい大地に悲劇が横たわる様を見事に映している。撮影監督はさぞ優秀なのだろうと思う。スヴェトスラフ・プラコヴスキーという人だが、国際映画祭で撮影賞を受賞しているようだ。この人の撮影した映画をもっと見てみたい。

杉本穂高