劇場公開日 2023年4月22日

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「チャーチルだけが。」独裁者たちのとき 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5チャーチルだけが。

2023年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2022年。アレクサンドル・ソクーロフ監督。スターリン、ヒトラー、ムッソリーニ、チャーチルという第二次世界大戦にかかわった政治指導者4人が、煉獄らしき場所にある「掟の門」的なところで門が開くのを待つ。そこには衰弱したキリストも体を休めており、神による救済を待っている、という「物語」。
冒頭でわざわざ「お断り」がある。ここにはディープフェイクもAI技術も使われておらず、過去の実際の映像のアーカイヴ資料だけが使われているという。すごいには、文脈の異なる映像の切れ端を集めてくる、しかもそれぞれ複数の映像を合成せずにばらばらに使用しているのでスターリンが3人、ヒトラーが4人になるのもいとわないのだが、それで上述したような「物語」を感じられるということだ。会話はかみ合っていないのだが、流れがつくれてしまうのは、指導者たちの言動が基本的に政治的なものであり、大衆に向けて敵をつくって戦いを鼓舞する煽りだからだろう。冒頭で横たわっているスターリンが起き上がる場面はよくあったなと思わせるが(しかも映画のなかではキリストと並んで横たわり、会話を交わしているように見える)。波のようにうねる「大衆」の表象もすごい。
チャーチルだけはほかの3人と意味合いが異なり、実際に、門の中へと迎え入れられる(天国行き?)のだが、最初にそれが保留されるのは戦争で大量死を招いたという意味で独裁者的ということか。ほかの3人が大衆への直接的な結びつきをことさら言明するのに対して、チャーチルだけが大衆との間に距離を感じさせる描き方が興味深い。

文字読み