劇場公開日 2023年4月22日

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「おとぎ話」独裁者たちのとき Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0おとぎ話

2023年4月26日
iPhoneアプリから投稿

ドレ或いはウィリアムブレイク挿絵の『神曲』の実写版のようで興奮した。

各国の命運をかけた第二次世界大戦。独裁者たちの回復不可能な罪状。
ダンテが『神曲』で何人もの教皇たちを地獄に堕としたように、ソクーロフは彼らを煉獄に閉じ込めた。

しかし原題は『Fairytale』。壮大極まりない『神曲』ではなく、あくまでおとぎ話風だ。

“子どもたちは地球が大好きだったので、いつかふたたび人間の子どもになりたいと思っているのです。
天国の扉の向こうへ行けない子どもたちは、人間の子どもになることをここで待っているのです”
って感じで怖かった。

食べることも飲むこともできない霊界。「自我」は 霊界の体験に満足できなくなるだろう。物質体験の中で自分を映し出さなければ満足できなくなると、「地上に生まれたい」という渇望が生じ、その要求に見合う“頃合い” を見計らって、地上へ戻ってくる。

天が、轟音とともに波に巻かれる大衆の阿鼻叫喚を彼らに示すが、罪悪感や畏敬の念を持ち合わせない彼らは嘲笑するだけ。カルマの解消どころか、以前の人生で自分が他の人に与えた苦痛を、新しい人生でも再び与えるだろう。

ナポレオンと、増殖するチャーチルの1人はエリザベス女王のいる扉の向こうへ行ったようだが、イエスは独裁者たちとともに煉獄に残っていた。国家的覇権主義が蔓延する現代、イエスは地上に戻ってくるのか?体じゅうが痛いって言ってたから、そんな元気なさそう。

余談。
『太陽』で、昭和天皇を一人の人間として扱ったソクーロフ。日本におけるタブー中のタブーを題材にした作品だが、私はまだ観ていないのが残念。

Raspberry