「父親の権力基盤に穴をあけた爆撃」ヌズーフ 魂、水、人々の移動 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
父親の権力基盤に穴をあけた爆撃
シリアの戦火で自宅が爆撃されて、大穴が空いてしまった家。ここに強権的な父親とそれにうんざりしている母親、そして自由を求めて空想しがちの少女が住んでいる。戦争被害から家族を守るためという大義名分で、女性2人を家に閉じ込めている父親。その家に大穴が開いて、娘は近所の少年と屋上で語らい、妻はこの家をあきらめて避難すべきと主張を続ける。家に大穴が空くことで、女性2人が父の支配から逃れる道筋ができる。必死に家を修理しようとする父親は、本当に修復しようと思っているものは、自身の権力基盤ではないか。家を出てから妻がタバコを吸ったりと生き生きとし始めるのが象徴的だ。大穴の空いた部屋のシュールさは、しかしリアルな戦地の実情でもある。空想的シーンも交えて魂の解放を描いた傑作。
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