「表現方法が変わる中、伝統的な温かみは記録映画の中にしか生き延びる場所はなかった」燈火(ネオン)は消えず Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
表現方法が変わる中、伝統的な温かみは記録映画の中にしか生き延びる場所はなかった
2024.1.25 字幕 京都シネマ
2022年の香港映画(103分、G)
ネオン職人の夫の死を受けた妻の再生の物語
監督&脚本はアナスタシア・ツァン
原題は『燈火闌珊』で「薄暗く消えかけのネオン」と言う意味、英題は『A Light Never Goes Out』で「ネオンは決して消えない」と言う意味
物語の舞台は、SARS蔓延後の香港
10年前にネオン工房を閉めた夫チャンビル(サイモン・ヤム、若年期:ジャッキー・トン)が他界し、妻メイヒャン(シルヴィア・チャン、若年期:アルマ・クォク)は人生を見つめ直す日々がやってきた
夫との思い出に耽る中、一人娘のチョイホン(セシリア・チョイ)は、婚約者のロイ(シン・マク)とともにオーストラリアへの移住を決めていた
ある日、閉めたはずの工房の鍵を見つけたメイヒャンは、その鍵を持って工房へと向かう
誰もいないはずの工房には若い男レオ(ヘニック・チョウ)がいて、彼は夫の弟子として、彼が残した仕事を続けていると言う
だが、家賃や光熱費は滞納し、彼は自らの命でケジメをつけようと考えていた
メイヒョンは代わりに工房の維持費を捻出し、一緒に「夫の最後の仕事」を手伝うことになった
そんな折、チョイホンはロイを連れて母に会いにきて、結婚して移住すると告げる
突然の出来事に驚きを隠せないメイヒョンだっだが、それを受け入れるしかなく、金にならないネオンを続けていることで娘とも険悪なムードになってしまう
さらに、夫の遺品を整理する中で、彼が出せなかった女性宛の手紙を見つけてしまう
宛先は「リウ・ミウライ(ミミ・クン)」となっていて、メイヒョンは事の真相を確かめるために会いに行くことになった
だが、彼女との関係は想像していたようなものではなく、ミウライは認知症の夫(チェン・ツゥアン)の治療のために「思い出のネオンを再生しよう」と考えていたのである
物語は、法改正によって撤去を余儀なくされたネオン業界を描き、そこでLEDに転身せずにこだわりを持ってネオンを続けてきた夫との日々を回想する流れになっていた
回想と現実パートを思った以上に行き来するものの、そこまで混乱するほどではなく、物語はシンプルなものになっていた
エンドロールでは現職のネオン職人さんや、本作の慣習に携わった職人さんなどが登場し、100万ドルの夜景を担ったネオンの数々が映し出されていく
工房の屋上で1日限りで再現されたネオンは圧巻で、それを見るための映画と言う感じがした
いずれにせよ、そこまで複雑な物語ではないものの、ネオンが消えていく理由とか、香港のSARSの影響などを念頭に置いておかないと意味がわからないシーンも多い
ある意味、ネオンの記録映画的な部分もあるお仕事系なので、そう言った部分に興味がある人向けとなっている
業界自体が存続が危うく、レオもこの業界で生きるならLEDへの転換を受け入れないと仕事としては成立しないだろう
ネオン懐古的な趣がメインで、消えゆく伝統と変わりゆく表現方法について思いを馳せると言う意味では鑑賞の意味はあるのかもしれません