「マンティコアを捕食するのは、マンティコアなのかもしれません」マンティコア 怪物 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
マンティコアを捕食するのは、マンティコアなのかもしれません
2024.4.24 字幕 アップリンク京都
2022年のスペイン&エストニア合作の映画(116分、PG12)
クリーチャーモデラーの青年と美術史専攻の女性の出会いを描いたラブロマンス&ヒューマンスリラー
監督&脚本はカルロス・ベルムト
原題の『Manticora』は、「人間の顔とライオンの体を持つ伝説の怪物」のこと
物語の舞台は、スペインのマドリード
古風な建物に住むクリーチャーモデラーのフリアン(ナチョ・サンチェス)は、ゲーム会社KOBOのソフト開発に関わっていた
VRゴーグルと特殊なソフトを使って自宅でクリーチャーを製作しているフリアンは、ある日、住んでいるマンションの火事騒ぎに巻き込まれてしまう
隣から子どもの助けの声が聞こえ、窓の外を確認したフリアンは、燃え盛る部屋に少年クリスチャン(アルバロ・サンス・ロドリゲス)が取り残されているのを見つける
ドアを蹴破って少年を保護し、ボヤを鎮火したフリアンは、救急医(Ignacio Ysasi)から「息苦しくなったらすぐに病院に行きなさい」と言われた
その後、普通に出社し、生活をしていたフリアンだったが、夜中に突然呼吸苦を認め、慌てて救急病院へと駆け込んだ
医師(Miquel Insua)は「不安神経症」と診断し、抗不安薬を処方する
指示通りに薬を飲んで、いつもと変わらない生活を試みるものの、どことなく不安は拭えなかった
ある日、同僚のサンドラ(アイツィベル・ガルメンディア)の誕生パーティーに参加することになったフリアンは、彼女の友人のディアナ(ゾーイ・ステイン)と出会う
彼女はオンラインで美術史を学んでいる女性で、フリアンの作ったモンスターを気に入っているという
彼女にはエリウス(パトリック・マルティーノ)という友人以上恋人未満という微妙な男がいたが、フリアンの出現によって、その関係は壊れることになった
物語は、火事を起点としてフリアンの隠された性衝動が露見し、それが暴露される流れを描いていく
クリスチャンとの出会いにて出現した衝動はVRの中で制作され、サーバー経由で本社にそのデータが保管されていた
人事部長のラウル(アルバート・アセーレ)に呼び出されたフリアンは、ゲームのプロデューサー(ヴィセンタ・ンドンゴ)から法的な措置を仄めかされて社を追われることになる
ディアナもサンドラ経由でそのことを聞いていて、「吐き気がする」とまで言われてしまう
そこでフリアンはクリスチャンのところに出向くのだが、彼が描いたフリアンの絵を見てしまったことで、どこにも居場所がないことを悟るのである
物語は、クリスチャンの絵(=マンティコア)を見たフリアンが自殺を図り、全身不随状態になってしまうラストへ向かうのだが、そこには嬉々としたディアナがやってくるというラストを迎える
このラストが衝撃的と予告編で宣伝されているのだが、これこそがディアナに隠された衝動だったことがわかる
身動きの取れない相手への奉仕と言えば聞こえが良いのだが、どんなことをされても抵抗できないものとの対面を嬉しく思うというのは、相当なものがあると言えるのではないだろうか
いずれにせよ、かなりの偏った愛欲を描いていて、フリアンには隠された小児性愛があり、ディアナにも無抵抗者に対する何かしらの偏りがあるように見られる
身動きが取れないフリアンを介護するのは愛情に見えるものの、それでディアナの何かが満たされるのであって、それを明確に描かないところが恐ろしくも思う
もしかしたらディアナは、フリアンとは逆の資質を持ったマンティコアで、無抵抗者に対する性的虐待などが起こってしまうのかもしれない
そんな不穏さがあの笑顔に隠されていて、違った意味でフリアンは地獄に足を踏み入れてしまったように思えた