「夢を抱いた第二の人生が地獄と化していく、実話が基となった心理スリラー映画。」理想郷 SENKENさんの映画レビュー(感想・評価)
夢を抱いた第二の人生が地獄と化していく、実話が基となった心理スリラー映画。
『理想郷』というタイトルのイメージからは程遠い、序盤から終始不穏なムードが漂い続ける心理スリラー映画。
フランス人熟年夫婦が、第二の人生にスペインの小さな村に移住する。夢であった新天地での暮らしが、あることがきっけかで地獄と化していく様子が描かれる。これが実際にスペインで起きた事件がベースになっているというから驚愕でしかない。
ことの発端は、移住者のアントワーヌ・オルガ夫妻が、土地をめぐる問題で地元住民と対立、確執が生じてしまったこと。夫妻は地元住民から執拗に嫌がらせを受けるようになり、脅しと報復の応酬合戦は次第に狂気をおび、緊迫していく。
山村の美しい自然を恩恵と受け取るアントワーヌ・オルガ夫妻と、貧困と閉塞感の元凶と捉えている地元住民。短期間でもその土地を愛して住んでいる者と、嫌悪しながらも長年住み続けている者では、どちらが「ここは私の故郷だ」と声高に主張できるのか。観客は正解のない問いの難解な答えを求められる。
いずれにせよ、猜疑心と執着心に囚われた狭量な思考に陥っていては、「理想の故郷」など、誰であってもこの世の何処にも見つけられないだろう。
本作は、第35回東京国際映画祭で東京グランプリ(最優秀作品賞)・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞、第37回ゴヤ賞では主要9部門など、数々の賞を獲得。世界で絶賛され、高い評価を受けている。原題は『As beatas(野獣たち)』。
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