「薄いレイヤーが何層にも重なって、淡い絵を描いているみたいな印象」ひとりぼっちじゃない ARUさんの映画レビュー(感想・評価)
薄いレイヤーが何層にも重なって、淡い絵を描いているみたいな印象
長くて静かな映画だったけど、不思議と飽きずに最後まで観れた。
強い主張はないのに、ネチネチと訴え続ける持久力がある。
誰にでもある普遍的な、自意識過剰の自分を持て余す感覚を、10倍くらい拡大した感じの主人公に、自分の日記を読み返すような親近感を覚えた。
主人公ススメの不器用な言動や、怯えた視線には共感せずにはいられない説得力がある。
それなのに何故か、映画を見終わると、ススメの存在感は夢の記憶のように一瞬で溶けて消えてしまう。
確かにそこに居たはずなのに、実在感が危うく、曖昧な手応えしか残らない。
親しみ易い空気を出しつつ、底知れない虚無感を醸す主人公。
原作では、もっと主人公の在り方は生々しかった気がした。
映画の主人公が、何処かは計り知れない浮遊感を醸しているように感じられたのは、俳優としての井口さんの根本的な特性に起因するところもあるのかもしれない。
一見どこにでもいる人に見えて、実はどうにも掴みどころのない、底知れない何かを秘めるキャラクター。
井口さんは、物語の作り手の創造力を、激しく刺激するタイプの役者になって行くのかも知れないと思う。
映画の進み方については、ちょっとゆっくり過ぎる感じがした。映画内の時間経過は、観る側が脳内で恣意的に伸び縮みさせながら捉えているので、物理的に長尺を押し付けられると却って集中力が阻害されてしまう気がした。もっと観る側を信じて、粗い要素を積み上げてくれても良かったかなと僭越ながら感じた。
とにかく、誰もが日常と非日常の狭間で、必然的に迷い込みたいという願望を持つような世界が、一瞬目の前に開けたような気持ちになれる素敵な映画だったと思います。
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