「ポコポコ、ポコポコ。水の中。」ひとりぼっちじゃない 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ポコポコ、ポコポコ。水の中。
周りの人たちと違っていて、生きづらそうな男。あの「ジョーカー」の主人公の場合、スタンダップコメディの劇場に通って社会と適合しようと努力したように、この男は、患者に見立てた模型を相手に苦手な会話術を克服しようと試みている。草花に囲まれることや、自分を理解してくれる女性(ほんとにそうなのか疑問だったが)がいることとか、彼なりのやすらぎの場があるのはありがたいことだろう。歯科医師になれるくらいなのだから頭はいいのだろうが、どうみても社会性に乏しい。それならそれでいいのだけど、だったらもっとセックスも不器用に描いて欲しいと思う。彼らのような人種は、もっと自分の殻の中でもがいている。もしかしたら、亡霊のようなものだけではなく、ミヤコもヨウコも、現実から逃れたい彼の願望が産んだ空想の世界の住民なのかも知れないとも思った。
最後の母子の会話に、ちょっと前向きな人生が見えてホロッときた。たぶんに千葉雅子の演技によるところも大きいが、現実の自分が母の立場に近い(つまり身内にそんな人間がいるということ)からだろう。だから母の気持ちがよくわかる。少なくとも、ジョーカーのように道を踏み外すことなく、自分が生きていける道を模索する作業を諦めないところに光明があった。
ただ、それまでの話があまりにも凡長に見えて、しかも映画の尺が長すぎた。長いわりには、伝えたいことがいまいち伝わってこなかった。まるで、こっちも水の中で息苦しいような気分だった。
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