「愛だけでは治せない」The Son 息子 ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)
愛だけでは治せない
身内が不登校だった経験から言うと、本作の親子の行く末は想像がついてしまう。
一旦不登校になった息子を、せっかちに立ち直らせようとしてはいけない。
医師に病気だと診断されたら、息子が何と言おうと、地道に薬で治療していくしかない。
本作での一番の問題は、両親が離婚、母親とは不仲、父親は再婚という負のスパイラルである。
この状況によって、息子をきちっと見守る存在がいなくなる。
ヒュー・ジャックマン演じる父親が面倒を見ることになるが、妻は乳飲み子を抱え、自分も引く手あまたのエリート弁護士で、きちっと見守る時間がない。エリートであるがゆえに、愛情はあるべき理想の息子像への憧憬に変わり、幼少時代の無邪気だった頃の息子の幻ばかりを追う。
長期間の辛抱を要する治療と見守りを避けて、せっかちにあるべき理想像(息子は小説家を志望していた)を思い描き、息子の突然の陽気な態度に幻惑されて、元の生活に戻れると早合点してしまう。無知のなせる業である。
現実をなかなか受け入れられない両親の錯覚と焦燥が映像を蔽い、時が熟さないままに、事態は急変していく。その冷徹なまでに現実を直視する姿勢は、等身大の家族像に肉薄する、フロリアン・ゼレール監督ならではである。
「愛だけでは治せない」
息子の主治医が言った言葉が、皮肉にも説得力があり的を得ている。
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