「再婚した父の愛情を追い掛ける、繊細な少年の彷徨」The Son 息子 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
再婚した父の愛情を追い掛ける、繊細な少年の彷徨
老いて認知症となる父親とその娘の物語「ファーザー」は、主演アンソニー・ホプキンスの名演とフローリアン・ゼレールの確かな演劇演出の秀作だった。今回タイトルを「The Son 息子」としているが、主演ヒュー・ジャックマン演じる父親ピーターの視界からみた17歳の息子の精神的病を描いている。家庭の温もりを失った少年が無気力から悩み抜いて自暴自棄となり自身を追い詰めていく悲劇をじっくりと丁寧に映画にしている。その繊細な息子を救いきれないピーターの動揺と理解と叱責の演技を、ヒュー・ジャックマンが俳優キャリアに加えたいと挑戦した意欲作でもあろう。こころの病は個人によって原因も過程も症状も様々で、一つの事例を持ち出して多くのことを語るのは、専門家でない限り避けた方がよいだろう。この大前提に立てば、父親の愛情が徒となったピーターの行動とも取れる。それだけに父とまだ自立していない息子の関係は、この作品に限らず多くの映画で描かれてきた。
多感な15歳の時両親が離婚し、父が家を出て新しい家庭を持ち弟が生まれる。幼い時から両親の愛情をたっぷり受けたニコラスが、その幸せな家庭の喪失に心が傷付いたことは、二番目の妻ベスに問い詰めて怒りを露にすることで理解できる。大人の都合で離婚しても、子供には理解しがたいし、棄てられた思いは一生消えることはない。父親ピーターも同じような経験を経て、その怒りをバネに自立し弁護士として成功を収めたから、ニコラスにもっと強く生きることを求める。この要求の高さを見ると、却って借金や事件を起こして家を出た駄目な父親の方が、残された家族にとって割り切れ区切りが付けられるかも知れない。ニコラスを演じたゼン・マクグラスの繊細な演技からは、父恋しさの少年の嘆きが見て取れて、まだ成長過程の未熟さと生きる手本を求める受け身の弱さが感じられます。
ストーリーはとてもシンプルで、少ない登場人物による家族の問題を冷静に捉えた映画でした。ただ「ファーザー」で観られた演出の個性的な味わいは薄く、答えの出ない問題を投げかけられたようで、鑑賞後はスッキリしません。悩みごとの無い家庭はないし、それぞれに問題を抱えている現実に少しでもメッセージが届けられたらの制作意図を持った、真面目で深刻な作品。脚本、演出、演技、撮影と、どれもが標準以上のレベルには違いありません。でもあと一つ心に響くものが欲しかったと、正直な感想です。
個人的な経験では、親の愛情が薄い子供の表情は何処か淋しい印象を受けてきました。反対に過保護に育てられた子供は、満たされて安堵の特徴のない表情が多い。映画では、特に母親からの愛情に恵まれず不良になって悪さをする少年の犯罪映画があり、その主人公たちは何故か女性からモテ易い。母性本能を刺激する男の魅力が増しているよう。
昔一度あまりに淋しい顔をしたアルバイトの男の子がいて、プライベートなことに触れたら、父親を病気で亡くしていました。父親とは、模範的であれ、反面教師であれ、子供の社会性を育む意味で重要な意味を持つと言われています。離婚が劇的に増加している現代は、少年犯罪につながる社会問題も顕在化しています。せめて子供が成人するまで離婚はしない方が、(極端な例外を除いて)どちらにとっても問題を最小限に抑えられるのではないかと思います。
Gustavさん、3ヵ月ほど続いた、ダブル・アカウント状態がやっと解消しました・・・
ほっとしましたが、その3ヵ月の間、新しく生成されたアカウントの方に頂いた共感やコメントが全部消えて残念で申し訳なく思っております