「柔らかな和音と悲しみの不協和音が交互に響きわたる」The Son 息子 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
柔らかな和音と悲しみの不協和音が交互に響きわたる
複雑な感情が入り混じり、柔らかな和音と悲しみの不協和音が交互に響きたわたる映画だ。興味深いことに本作は、親子3世代それぞれの関係性を描くことによって、一方の側に光を当てると、自ずともう一方が浮かび上がる構造を持っている。すなわちヒュー・ジャックマン演じる主人公は、表向きは順風満帆のミドルエイジでありながら、今なお父(とある名優が演じる)の前ではどこか自分をさらけ出せない息子のままであり、かと思えば、自らもまた「ああはなりたくない」と思い続けてきた父と同じ態度を息子に対して取ってしまって愕然としたりもする。親との間にわだかまりを持ち、なおかつ息子のことも理解できない彼は、結局”自分”のことすら十分に知り尽くせぬまま人生を重ねた人間なのかもしれない。かくも戯曲ならではの立体的な関係性や練られたセリフ、俳優陣の名演に心動かされる。ことの原因に気づきながら何ら打つ手のない大人たちがひたすら哀しい。
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