「抗議活動というアート」美と殺戮のすべて サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
抗議活動というアート
鎮痛剤として世界中の人々に投与された〈オキシコンチン〉は強オピオイド(鎮痛・陶酔作用のある化合物)で非常に高い中毒性があり、薬物乱用者が続出すると共に、死者は50万人を超えてしまった。この映画はそんな凶悪な薬物を使ってしまった写真家・ナン・ゴールディンが自分と同じように苦しんだ人々と共にサックラー家を訴訟し、責任を追求するドキュメンタリー。
かと思っていたんだけど、6割以上がナン・ゴールディンのこれまでと自信がシャッターを切った写真の話とスライドショーであり、オキシコンチンに対する訴訟の様子は僅か。この映画だけじゃその問題のモヤモヤは解決しないし、背景をわかっていないと理解も難しい。苦悩と再起の様子が描かれている作品だと想像していたから、コレジャナイ感が凄かった。これなら最初からそう宣伝してくれたらいいのに、、、予告が酷いや。
ひたすら説明。ずっと同じ構図。
彼女の魅力を伝える映画としても微妙な出来栄え。原因は観客の心を掴む気のない編集にあると思う。こんなかったるい雰囲気で淡々と話されても、正直興味を持てない。ゴールディンが撮る写真は斬新で、今なお世界中の美術館から重宝される理由が容易に分かる。「写真の持つ意味はひとつじゃない。」彼女が何故カメラを向け続けるのか、何故誰も撮らないものを撮ろうとするのか、そういった本質的な部分はスライドショーから読み取れて、考えさせられるものがあった。
しかしながら、それが抗議活動と関連するとは到底思えず、なんなら訴訟が二の次になっているため、監督はゴールディンのドキュメンタリーを作りたかっただけなんだろうなと思ってしまった。少なくとも、〈殺戮の天使のすべて〉ではないぞ、これは。