「☆☆☆★★★ いや〜なかなか手強い映画だった。 作品中に描かれない...」TAR ター 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆★★★ いや〜なかなか手強い映画だった。 作品中に描かれない...
☆☆☆★★★
いや〜なかなか手強い映画だった。
作品中に描かれない部分が多すぎて全然画面から得られるPEACEが埋まらない。
観ながら「これ全盛期の鈴木清順の映画か?」…と思った程。
…とは言え、スクリーンで縦横無尽に涼しい顔して独裁者振りを発揮するケイト・ブランシェットを堪能出来る喜びに浸り続ける幸せを味わう映画でもあった。
指揮者の彼女は作曲もするのだが、「模倣になってしまい…」と語るが。師匠には「ベートーベンもだ!」と慰めらる。
現在進めている企画がマーラーの5番のライブ録音。
その為にジャケットにはアバドのジャケットを模倣する彼女。
「いや!それ模倣じゃん!」とは思うが、彼女にはそんな事は百も承知なのだろう。
最早レジェンドのバーンスタインよりも、現在の絶対君主アバドを越えるのが今の彼女の目標なのだから。
それだけの自信も充分に持ち合わせている。
今準備中のマーラの5番は、トランペットのソロで始まる葬送曲の出だしが有名。
作曲中に隣人の家から聞こえる謎のチャイムから、そのトランペットソロ直後へと繋がるリハーサルの指揮場面にはゾクゾクした。
次から次へと傍若無人な振る舞いをし始める彼女。
そんな彼女が、それまでの振る舞いがブーメランとなって自身に降りかかり。決定的に転落するのが、5番のオープニングにあたるトランペットソロの葬送部なのが楽し、、、ゴホっ!象徴的。
自分のお気に入りを手に入れる為ならばもうやりたい放題。
そんな彼女の仕掛けた罠も、長年に渡る彼女に周りに張り巡らせていた【罠】に彼女自体が嵌ってしまうのだが、、、
主演がケイト・ブランシェットだけにウディ・アレンの『ブルージャスミン』との比較で語られる事が多い気がするのですが。実はこの作品ってオリビア・アサイアスの『アクトレス 彼女たちの舞台』の模倣、、、とは言わないまでも、かなり構造上で重なっている箇所が多い気が個人的にはします。
勿論、模倣などとはこれっぽっちも思ってはいませんが。
ラストは、今後も彼女(モンスター)はハンターとして活躍し続けて行くのを感じさせて終わる。
後半はある意味での人間ホラー映画にもなっていた。
2023年 6月15日 TOHOシネマズ/シャンテ・シネ1