「頂点が登れる山は無い」TAR ター サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
頂点が登れる山は無い
公開から4週間が経って、ようやく見ることが出来ました。レイトショーばかりはやめていただきたいな。しかも、160分近くあるんだし。ケイト・ブランシェットがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたということで鑑賞したのだけど、なんで受賞しなかったのか意味わからないくらい、凄かった。これで取れなかったらいつ取れんの。
音楽界の専門用語や独特な言い回し、息が詰まる長ゼリフにノックアウトされそうだったけど、何とか持ちこたえた。人物関係が難しく、顔と名前が一致せずに終わってしまったが、言いたいことは至ってシンプル。トップに立つ人間は、前も後ろも見ようとも、更なるところに登ることは出来ない。ひたすらに孤独で、生きずらい。あまり描かれることの無い人物像ではあるが、実在の人物を元にした訳じゃないの?と疑うほどリアリティのあるキャラクターだった。冗長ではあるけれど、主人公の栄光と奈落への道をしっかり描いており、一瞬眠気に襲われるけど、すぐに引き戻される。
こんなにも異様な主人公、脚本だけ読んだら実写化不可であろうと思うはずなのに、ケイト・ブランシェットは見事に落とし込んでいた。なんと言葉に表したらいいのか分からないが、間違いなく彼女の演技は“頂点”であり、憑依を超えた一体感であった。ケイト・ブランシェットが役者であることを忘れそうになるほど、強烈で破滅的。もう1回アカデミーに提出し直して欲しい。今からで遅くないから(遅いけど)、彼女にオスカーを与えて欲しい。呆気に取られる、ハイレベル過ぎる表現力。ここ10年のアカデミーノミネート女優で最高峰である。
作品から鳴り響く、不協和音。
奇妙で恐ろしく、ある意味ホラーのような本作は胸にぐいぐい刺さる。隣人の話だとか、娘の話だとか、こんだけ時間があったら上手くストーリーに絡めることも出来たろうに、なんか雑に片付けられていて勿体ない。音楽と演出の良さは他の作品と比べても群を抜いているが、そのせいか脚本の投げやり感が際立っている。味はいいのに、盛り付けが下手。もっと面白くなったような気がしました。
楽しい!面白い!という訳では無いけれど、すごく心に残る作品。味わい深く、見応えがある。長尺のためにハマるか不安だったけれど、なかなか好みな映画でした。公開終了間近になってでも、意地になって映画館で見てよかった。いい体験させてもらった。