劇場公開日 2023年5月12日

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「クラシック音楽界を舞台とした正統的なピカレスクロマンやサイコスリラーを予期していたら、冒頭から度肝を抜かれる一作」TAR ター yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5クラシック音楽界を舞台とした正統的なピカレスクロマンやサイコスリラーを予期していたら、冒頭から度肝を抜かれる一作

2023年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

誰もがまず驚かされるのは、冒頭のある仕掛け。驚きつつも、これは通常の作りの作品ではないということを直感的に理解させてくれます。

ケイト・ブランシェット演じるリディア・ターは、その切れの鋭い身体動作があまりにも独特で、ブランシェットは実在のターの動きを緻密に再現したのかと思ってしまいますが、ターは全く架空の人物。それなのにこれだけの存在感を与えるのだから、ブランシェットの演技は恐るべき、としか言いようがありません。

一つひとつの楽曲にも物語的な意味を持たせており、その意図を読み取ることも楽しければ、ただ素晴らしい音楽に身を任せても良いという、映画館で鑑賞した甲斐を実感できる作品です。

予告編から観た本作は、天才だけど冷酷非情なオーケストラ指揮者、ターが権謀術数を巡らせつつそれにはまり込んでいくピカレスクロマン、あるいはターが精神的に追い詰められていくサイコスリラーではないかと予想させるものだったけど、実際の本編は確かにそれらの要素を絶妙に配合しつつも、思ってもみないような展開に観客を誘導する内容となっていました。

本作は一見明確な筋立てのようで実は非常に入り組んだ物語構造をしていて、その仕組みを感じられないと、結末が異様に凡庸に見えたり、意図が掴みづらく呆然となってしまうという類の映画です。そのため、おそらく複数回鑑賞したくなる人も多いのでは、と思います。いわゆる「考察のしがいのある」映画と言って良いと思います。

しかも予告編にあったある場面の顛末など、大真面目にやっているのかふざけているのか分からないような展開もいくつか含まれており、何度か吹き出しそうになるという隙のなさ。

特に超有名なある作品のファンならぜひ最後まで鑑賞してもらいたい一作です。

yui