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「正義はどこにあるのか?」炎(1975) neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)
正義はどこにあるのか?
3時間半にわたる超大作で、インド映画の原型ともいえる作品です。西部劇のような広大な風景の中で、かつて罪を犯した二人の盗賊が、家族を皆殺しにされた元警官タクールの依頼を受け、盗賊団に立ち向かいます。アミターブ・バッチャン演じるジャイとダルメンドラ演じるヴィールーの二人は、友情と犠牲の物語の中心にあり、特にバッチャンの存在感は圧倒的でした。彼が物語の途中で命を落とすことで、物語は一気に「個人的復讐」から「倫理的選択」へと転換します。
この映画の核心は、単なる復讐劇ではなく「正義をどう行うか」という倫理の問題です。タクールは家族を殺され、両腕を失った復讐者でありながら、最終的には敵を殺さず、法に裁きを委ねます。そこには「不正に対して不正で返さない」というプラトン的な正義観が貫かれています。怒りを理性のもとに置き、自分より大きな秩序――法と運命(ダルマ)――に判断を委ねる。その選択こそが、この物語の核心です。
また、盲目の老人が「なぜ戦わないのか」と村人を叱咤する場面も印象的です。彼は視覚を失いながら、誰よりも真実を“見ている”存在として描かれます。被害者自身が「立ち上がる」倫理を語ることで、沈黙する民衆に勇気を呼び起こす。その姿は、植民地支配下で無力化された民が再び主体性を取り戻す象徴のようでした。
最終的にこの作品は、復讐ではなく「怒りを秩序へと変換する物語」として完成しています。
暴力の連鎖を断ち切り、理性の手に正義を戻す――。その意味で『ショーレイ』は、単なる娯楽映画を超えた、インド映画史上もっとも哲学的なエンターテインメントのひとつだと思います。
鑑賞方法: JAIHO
評価: 88点
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