「世界中がハア?」サンダーボルツ* 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
世界中がハア?
世界中がハア?
本作単体でカタルシスが得られるかどうかは、
観客それぞれの受け取り方次第だが、
MCUの新たな方向性を考える上で、
そして今後の展開への期待感を醸成する上で、
極めて重要な一作となっている。
エンタメ作品というよりも、
アート作品に近い、
虚無からの実存の巨人キルケゴールを引用してまでの、
会話劇が多い内容だ。
期待を込めて、
具体的に言っていこう。
作品全体に漂うアンダードッグ感、虚無、
そして孤独の強調は、
トラウマや傷を抱えたキャラクターたちが集結する物語となっている。
この点は、
旧アベンジャーズのイメージとは大きくかけ離れており、
ダークでシリアスな世界観を持つDCEUを彷彿とさせる側面があるのは否めない。
さらに踏み込むと、
世界観のみならず、
ヒーローの存在意義や組織の腐敗といったテーマを扱い、
より現実的で剥き出しの人間ドラマを描く、
「ウォッチメン」や「ザ・ボーイズ」といった作品群のテイストすら感じさせる。
本作の構造としては、
登場人物それぞれが抱える深いトラウマが物語の中心となるよう、
過去の出来事が語られる。
そのトラウマ体験をセリフだけではなく、
わざわざシーン建てして具体的に描く点、
さらに過去の自分と現在の自分が共存するかのような、
視覚的に強い印象を与えるシナリオと、
演出とビジュアルを施す念の入れようは、
並々ならぬ意気込みを感じさせる。
これは、単なる元ヴィランの、
設定開示の接触篇に終わらず、
キャラクターの内面に深く切り込み、
彼らの行動原理や葛藤を丁寧に描こうとする意図の表れだろう。
こうした丁寧な伏線やキャラクター構築は、
本作が今後の巨大な物語への序章としてのプロットであり、
ここで張られた伏線が次回以降で回収されていくことを示唆しているのかもしれない。
特に、この緻密なトラウマ描写と伏線構築からは、
かつてのシビル・ウォーやウィンター・ソルジャー級の、
政治的あるいは人間ドラマとしての深みを、
次回作以降で展開する予感すらさせる。
キャラクターの中でも、
ボブは彼が抱える根深い虚無感や、
他者に利用され続けてきたシークエンンスは、
彼がまるで「ザ・ボーイズ」のホームランダー(元々、キャプテン・アメリカのパロディであり、現代における「ヒーローの歪み」を体現するまさにトランプ大統領のような存在)や、その系譜に連なるソルジャーボーイのような、不安定で予測不能な、
あるいはダークサイドに堕ちかねない存在(原作踏襲、本作での布石含め)へと変貌するのではないかという憶測すら呼ぶ可能性もあるだろう。
ある種の孫引き引用の先祖回帰、
すなわちヒーローの理念から逸脱した、
より原型的・暴力的な存在への回帰を示唆しており、
非常に興味深いキャラクターとなるだろう。
こうした個々のキャラクターの可能性は、
作品への期待だけは最大限に高めていることは確かだ。
しかし、手放しにその到来を歓迎できるかというと、
いくつか気になる点もある。
一つは、
近年散見されるディズニーグループ全体の映像作品におけるクオリティの低下の影響だ。
VFXの技術問題、シナリオの練り込み不足、
あるいは全体的なフォーミュラ化といった問題が、
本作の持つであろう重厚なテーマやキャラクター描写の質を損なわないかという懸念は拭えない。
そして!
何よりも予測不能であり、
今後のシリーズトーンにどう影響するか未知数なのが、
〈青いファンタスティックな人たち〉だ。
期待を込めて最後に、
アンダーグラウンドな雰囲気、
エンタメ作品としては、
尺を使い過ぎの、
丁寧なキャラクターの掘り下げ、
そして今後の巨大な伏線としての機能は、
大きな可能性を秘めていると言えるだろう。
レッドガーディアンとエレーナの父娘に泣かされそうな気配も、
ぷんぷんする。
しかし、
そのポテンシャルを最大限に引き出せるかどうかは、
製作体制や、
他のシリーズとの統合といった外部要因にも左右される部分が大きいだろう。
ヒーロー映画というのは意外と言語化が難しいジャンルだと思うのですが、レビューを拝見して非常に鋭い考察に満ちた文章で、作品を読み解く参考になりました!
本作でなんだか肩透かしを食らったと感じてモヤモヤしていましたが、蛇足軒さんのレビューを読むとこれから先の可能性に期待できそうな気がしてきます。
是非フォローさせていただきたく、よろしくお願いします!