「可愛いだけじゃない。しっかり織り込まれたストーリー性が胸を打つ。」マルセル 靴をはいた小さな貝 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
可愛いだけじゃない。しっかり織り込まれたストーリー性が胸を打つ。
身長2.5cmの小さな貝が、向けられたカメラに向かって天真爛漫におしゃべりを続ける。そんなドキュメンタリー風のファンタジー世界を、ストップモーションを駆使して奇想天外に撮りあげた素敵な作品だ。何が素敵かって単にキャラや仕草が可愛いからだけではない。彼が一軒家で様々なアイディアを駆使して日常を営んでいく生態が見ていてとても楽しいし、撮影者(人間)と被写体とで織りなされる会話のキャッチボールもナチュラルで、敬意と創造性に富み、互いの間に少しずつ信頼関係が芽生えていくのが手に取るようにわかるのだ。そしてマルセルと一緒に暮らすおばあちゃん貝のふんわりと優しい存在感が最高。イザベラ・ロッセリーニが声をあてるこのキャラは、時にマルセルへ向けて勇気を持って踏み出すことの大切さを教えてくれたりもする。不意に登場するフィリップ・ラーキンの有名詩が、この映画の記憶をいっそう眩く、忘れがたいものへと高めている。
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