「正月映画らしい楽しさと軽さ。信者ビジネスの扱いには疑問も」嘘八百 なにわ夢の陣 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
正月映画らしい楽しさと軽さ。信者ビジネスの扱いには疑問も
古美術商・小池(中井貴一)と陶芸家・野田(佐々木蔵之介)が骨董の贋作をめぐり、時に競い合いまた時に手を組んで騒動を繰り広げるコミカルなシリーズの第3作。2018年1月に第1作、2020年1月に第2作と、律儀に1月に公開されており、正月映画の定番として認知されてきただろうか。
1作目の「嘘八百」では幻の利休の茶器、2作目「嘘八百 京町ロワイヤル」では織部の幻の茶器と来て、今作は秀吉の幻のお宝をめぐる話。大阪城関係者の全面協力を得られたそうで、天守閣をはじめ大阪城公園内でのロケ撮影や、さまざまな時間帯の大阪城の姿を背景に収めたショットの数々で、秀吉とそのお城が今もなお大阪の人たちにとって身近であり象徴的な存在であることを伝えてくれる。
脚本は前2作に続き今井雅子と足立紳。今回は野田による偽の骨董茶器の制作と小池らの騙しの大仕掛けに加え、カリスマ波動アーティストTAIKOH(安田章大)の創作活動も筋に絡んでくる。このTAIKOHの人気にあやかって波動グッズを高値で売ったりレンタルしたりという設定があるのだが、いわゆる“信者ビジネス”の扱いの軽さが気になった。波動水を売ったりするのはカルト教団の霊感商法に通じ、大森立嗣監督・芦田愛菜主演作「星の子」では同様の水ビジネスと信者一家の心模様を真摯に取り上げていた。笑いのネタにしてはいけない、などと言うつもりはないが、現実に被害者が大勢出ている手口なのだから、単なるおかしなエピソードの1つのように軽々に扱うべきではないということ。もしコメディの枠組みでやるなら、たとえばアダム・マッケイ監督の諸作(金融業界を扱った「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」、政界を描いた「バイス」など)のように巨悪や不正に正面から切り込み徹底的に笑いのめすくらいの覚悟がないと。
もしも脚本執筆の時点で旧統一教会問題が今くらい大きくなっていたなら、あるいはネタにするのを避けていたかもしれないし、間の悪さは認められるものの、配慮が足りなかったように感じられ、そこが惜しまれる。