劇場公開日 2022年11月18日

「とても手間のかかった高級料理の禍々しさを描いたら比類のない一作」ザ・メニュー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0とても手間のかかった高級料理の禍々しさを描いたら比類のない一作

2022年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

高級レストランを舞台としたサスペンスフルな作品、となると、最近公開された『ボイリング・ポイント 沸騰』をどうしても連想してしまうものの、『ボイリング・ポイント』のアンディ(スティーブ・グレアム)がどうしようもないシェフだった一方で、こっちは麗しきレイフ・ファインズなんで、もうちょっとちゃんとしてそう…、と思ってたらむしろこっちの方が極悪でした。

予告編からも明らかなんだけど、序盤から映像全体がものすごく不穏。なのに舞台となるレストランがある小島は風光明媚だし、レストランのデザインも食事も煌びやかで高級感が溢れています。この陽光降り注ぐ中での美的感覚と不穏な空気の奇妙な同居は、『ミッドサマー』(2019)をどことなく思わせます。しかしまるで客を閉じ込めるかのような重々しい扉が閉まったところから本格的な饗宴(惨劇)が幕を開けます。客一人ひとりをじわじわと締め上げていく手際も鮮やかなんだけど、かといって導入部に妙なまだるっこしさがないという締まった語りも良いです。

物語は幾つかの章に分かれていて、それぞれがコース料理と符合しています。そのメニュー紹介に奇妙なユーモアが混ざっているのでちょっと笑わせてくれるし、丹念に撮影された料理はどれも美術品のように美しいんだけど、やっぱり作品全体を覆う禍々しいトーンにより、食欲を刺激するどころかむしろげんなりすらします。この、食べるという原初的な行為にグルメ的な虚構をまとわりつかせることの醜悪さを見せる仕掛けが実に巧みです。そんな「食欲を失わせるレストラン映画」なんだけど、一品だけかぶりつきたくなるような食事が出てきて、鑑賞後に食べたくなること請け合いです。

レイフ・ファインズの気高いけど恐ろしい演技は見事だけど、やっぱりアニャ・テイラー=ジョイの立ち振る舞い、存在感は際立っています。すごく演技がいいのに、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)など、役柄上あるいは展開上、男性に道具化されてしまうような役が多いのは少し残念。ここは『マッドマックス』の新作でフィリオサを務める彼女の活躍に期待したいところです。

yui