「意識高いシェフが意識高い「系」クソ客の意識を他界へ送る」ザ・メニュー ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
意識高いシェフが意識高い「系」クソ客の意識を他界へ送る
お料理美味しそう、からのギャアア!を行ったり来たりするのが忙しい(褒め言葉)映画。最初から悪いことが起こる予感しかしないのに、章立て代わりのメニュー紹介が進むと、次の趣向を見たくなってしまう。
不穏なレイフ•ファインズがとてもいい。因縁の客たちと母親の計12人を招いた破滅的な最後の晩餐に部下たちが付き従う、信仰に近い彼のカリスマ性に説得力をもたらしていた。
スローヴィクは、招いた客それぞれに恨み(料理の真価が分からないのに不遜な態度を取られたり貶めるような記事を書かれたりしたのかも知れない)があって凝った復讐をしたのは分かるが、何故自らもスタッフまで巻き込んで死を選んだのだろう。
あれだけの人数のセレブリティを殺せば隠しおおせるはずがなく、逮捕されることでシェフを続けられなくなるという現実的な事情は当然ある。
ただ、彼から溢れるシェフとしての矜持を見ていると、完璧な芸術と自負する自らの料理を理解出来る、腕を振るう甲斐のある顧客がこの世に存在しないという絶望が大きかったのではないかと思えてくる。
予約の取れない高級店で食べたというステータス目的の成金セレブ、シェフの出世もレビュー次第と考える不遜な評論家、食べたものを分かってない覚えてない客……あー実際いそう、こういう人たち。とか言ってる私も多分あの場で指ツメられそうな味覚レベルですが(汗)。
タイラーは口先だけの美食家だが、スローヴィクに盲目的に心酔していて、自分を含め全員が死ぬディナーと分かってもそれもまた芸術と理解を示した(私は全く理解出来ないが)から呼ばれた、ということだろうか。
だが結局は、自分では何も作り出せないことがバレて(というより最初から見透かされていた?)、他の客と同じ侮蔑の対象として死ぬことになった。
スタッフが死んでも他の客の指が飛んでも意に介さずモグモグしている彼を見て、不気味な反面ちょっと笑ってしまった。
最後の人間焼きマシュマロも、恐ろしいのにどこか隠し味のようなコミカルさがあった。
マーゴはシェフの部屋で気づいた彼の経歴を踏まえたオーダーをした。その態度は、あの場の他の客と違いあくまでフェアだった。だから助かったのだろう。
金さえ払えばお客様は神様だ、どう食べようが客の勝手だ、ではなく、芸術家や職人が技を尽くすことに対して客側も真摯であれ、対等であれということか。
ネットお勧めのお店に行って、評判通り美味しいねと、食事が情報確認の作業に陥ること。素人評論家がネットに跋扈し、言いがかりすれすれの辛口批評が時にバズってしまうこと。本作は現実のそんな風潮に対しても、創造する苦しみと厳しさを負う視点から辛辣なカウンターパンチを浴びせているように見えた。
私は、食べるのではなく味わうということをしているだろうか?とりあえず、本格ハンバーガーを味わってみたくなった。